松嶋は、意図的に簡略化した描写や、緩急のある構図、ドラスティックな色彩、花柄や唐草模様を取り入れた線描やコラージュ、モチーフを網目模様で絡めて連鎖させていくような表現などを用いて、その不条理で非現実的な情景は時には可笑しさも伴い、観る者の感情を小気味よく波立てるような作品を制作しています。
昨年の個展「口にすると嘘になる呪文」(児玉画廊|東京)では、余白を活かし軽やかな線描が重なり合う優美な作品や、かと思えば、怜悧な構図と色彩がミニマルな印象を与える作品など、様々な手法、形態によって個々に独立した世界を表象していくような展覧会を構成しました。それは非常に私的な、自分だけのロジックと自分だけの感性が支配する、他人にはおよそ計り知れない松嶋の世界感の極北であったように思います。
今回の個展においては、そうしたバリエーションの多彩さ、これまでのような装飾的な表現や、曲線が織り成す優美さが陰を潜め、代わりに硬質で無味乾燥なモチーフ、直線的でシャープな線描で構築された、黒い紙に鉛筆で描くドローイングによって展覧会を構成しています。いつもの彩りに溢れた印象とは一変してモノトーンに徹した、凛と張りつめるような空気感を演出しています。この黒いドローイングは、鉛筆を黒地に使用しているため、見る角度や光の照射状況によって千変万化します。細かい鉛筆の線描が縦横に走り、享楽的で渾然としたあり得ない情景、異形の何かが賑々しく跳梁跋扈する様子など、イメージがゆらゆらと幻想的に移ろうように描かれ、絵の内容もつかみ所がないだけでなく、線描自体も目を凝らし、見る位置を変えながらようやく全容を知る、というような作品で、鈍く光る鉛筆の金属的な線が、非現実感を強調し、見るものの妄想を掻き立てます。
最近では、例えば、玩具売り場に整然と無機質なプラモデルやロボット玩具などが並べられている様子などがなぜか良く目に留まる、と作家が言うように、これまでの柔らかなフォームや華やかな色彩とはまるで逆の、色や生気を失ったような存在に想像力を刺激されているのでしょう。それは描かれているモチーフから一目瞭然ですが、しかし、松嶋の根本的な部分にある、連鎖するイメージが暴走して歯止めが利かなくなるようなイマジネーションの流動性、ほんのわずかな非日常性を捉えて、そこからじわじわとこちらに異世界を流入させていくようなストーリー性のある展開などは通底しています。「夜の帳」を想起させるモノトーンの空間において、さらに深部へと耽溺するような松嶋の新たな世界観をぜひお楽しみください。
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