これまで美術史の中では「絵画の死」が繰り返し唱えられ、写真、映像、インスタレーションといった新しい表現形態が起るたびに、その終焉が語られてきました。しかしながら、その反動として「絵画への回帰」が起こることはあっても、終焉の時が訪れるはずもなく、20世紀の美術史を振り返れば、依然として絵画がその揺るぎないポジションを確立し続けてきたことは明白です。一方で大型国際展やアートフェアでは、表現方法の目新しさに重きが置かれる傾向が強く、映像やインスタレーション作品が主流を占めています。こうした状況の中で、敢えてキャンバスと油絵の具という伝統的な方法にこだわりながら、独創的な絵画作品を描き続ける画家を改めて見詰め直す機会として、今津景、桑久保徹をゲストに迎え、本展を開催する運びとなりました。3人の作家に共通しているのは、描くことへの強い欲望と、現代的な感性で独自の世界を描き続けることで、時代と積極的に関わろうとしている点にあります。
今津景はインターネットや雑誌上のイメージ、自分で撮影した写真などを組み合わせて画面を構成し、曖昧な時間軸と視点により構築された揺らめくような風景を描きます。画面に漂う浮遊感や違和感は、その美しさとは裏腹に現実世界の矛盾や不安を想起させます。仮想の画家クォード・ボネを自らの中に設定するという演劇的なアプローチで、現代美術としての絵画の位置づけを問うことからスタートした桑久保徹は、筆致のリズムを活かした油絵の具の厚塗りという一見近代西洋絵画的な手法により、現代社会のエモーショナルな光景を、様々な事象やオブジェを通して描き出しています。安田悠は夢の中のような情景を、空間、時間が混じり合う陽炎のような独特のタッチと大胆な色彩のレイヤーで描き出し、既存の時空概念から解き放たれた流動的な絵画世界を創出します。それはまるで、地平の向こう側に来るべき未来を覗くがごとく、予言的な風景となり立ち現われます。
本展では各作家による大きなサイズの新作1点ずつに加え、小品数点で構成されます。絵画の新たな可能性をテーマに描き出される、今、最も注目される画家3人の競演に是非ご期待ください。
作家プロフィール
今津景
1980年生まれ、2007年多摩美術大学大学院美術研究科修了。主な展覧会に「Flash」(山本現代、東京、2012年)、「JAPANESE COLORS」(GALLERY IHN、韓国、2010年)「VOCA展」(上野の森美術館、東京、2009年)など。
http://www.imazukei.com/
桑久保徹
1978年生まれ、2002年多摩美術大学大学絵画科油画専攻卒業。主な展覧会に「Out of Noise」(ギャラリー・ヒュンダイ、ソウル、2010年)「海の話し 画家の話し」(トーキョーワンダーサイト渋谷、東京、2010年)、「World Citizens with the White Boxes」
(小山登美夫ギャラリー、東京、2008年)など。
http://www.tomiokoyamagallery.com/artists/kuwakubo/
安田悠
1982年生まれ、2007年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。主な展覧会に「VOCA展」(上野の森美術館、東京、2008年)、「Art in an Office」(豊田市美術館、愛知、2011年)、「面影の向こう側」(YUKA TSURUNO、東京、2011年)など。
http://www.yu-yasuda.com
Email: info@yukatsuruno.com