YUKA TSURUNOでは来る4月7日(土)から5月12日(土)まで、狩野哲郎 個展「1本で複数の木 / Protean wood」を開催いたします。
狩野哲郎は現在まで、植物の種子を展示空間に蒔き、成長を見守るインスタレーションや、鳥と植物を内包した空間設計としてのインスタレーションなど、レジデンスや滞在制作型のプロジェクトを中心に自然物と既製品を組み合わせたインスタレーション、ドローイング、写真などを使ったサイトスペシフィックな作品の制作に取り組んできています。昨年2011年には、東京都現代美術館の敷地内に建てられたパヴィリオンでの展示「ブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクト」のトップバッターとして個展を開催し大きな話題になりました。そこでは網やホース、鳥脅しなどを用いて、「自然の設計/Naturplan」と称したインスタレーションに鳥を招き入れ、美術館の展示室に配置された、様々な既製品という人間にとっての記号的な意味を持ちながら、鳥にとっては生活環境として認識されていく、新たな空間の知覚方法を提示しました。このように狩野は、作品材料や作品を展示する空間を、それらがあらかじめ持っていた何らかの意味や機能を逸脱し、新たに組み合わせることで、日常的なスケールの中でのランドスケープ、またはドローイングのような空間をつくり出します。植物や動物など、人間にとってはコントロールできない偶然性をも内包した作品は、私たち人間の知覚とは異なった時間の流れを感じさせ、同時に、同じ環境の中で人間以外の生物もそれぞれの「自然」の中で生きていることへの想像を促します。
YUKA TSURUNOでの初個展となる本展は、「自然の設計/Naturplan」シリーズの新作インスタレーションとドローイングによって構成されます。タイトルとなっている「1本で複数の木」とは、生物学者であるユクスキュルの「一本のカシワの木が、多種多様なそれぞれの生物にとって変化にとんだ役割を果たしている」という考えに基づくものであり、そこから狩野が独自に発展させたものです。世界をどこか傍観者として眺めるような姿勢で、人間によって意味付けされたものに疑問を投げかけながらも、それらを越えて存在する生き物たちの「自然」とそこから派生する文化に対する狩野の深い洞察が作品をもって立ち現れます。
本展について、狩野は以下のように述べています。
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ある小鳥が認識しうる「自然」の中から理想のとまり木を探し出すとせよ。
「自然」が小鳥の認識の限界量よりも大きい時、小鳥は全てのとまり木を試すことはできない。「自然」が小鳥の認識の限界量よりも小さい時、その中に存在するとまり木が理想であるかどうか確信することはできない。「自然」が大きくても小さくても理想のとまり木を探しているあいだには見つけることはできないのかもしれない。
ここに理想的な円柱形に加工された「小鳥のとまり木」がある。人間によって想像された「小鳥のとまり木」はいったいどの小鳥のための理想のとまり木になりうるだろう。もし世界から全ての小枝がなくなってしまっても、小鳥は「小鳥のとまり木」にとまるための理想の趾(あしゆび)を持つように進化するだろう。
僕はいくつかの素材を組み合わせインスタレーションをつくる。それは鳥小屋のようでもあるし罠のようでもある。素材の中には何らかの用途や機能を想定して作られたものが多々ある。しかしその想定がどこまで正しいかはもっとも確認することの難しいことのうちのひとつである。ギャラリーの中に鳥が飛んでいる。結局のところ、これらのインスタレーションは恣意的なドローイングのようなもので、彼/彼女らにとってはそれはただ、あたらしい自然でしかないのだろう。もしあなたが日々「自然」が更新され続けていることに気づいてしまったとしても、僕たちは鳥について心配するべきではない、彼/彼女らは「あたらしい自然」を認識し、自然の設計によって遠からず適応するだろう。もちろん「自然」を認識できるのは鳥に限った話ではない。ただし、「あたらしい自然」の中に人間の居場所が常にあり続けるわけではないことを、僕たちは知っておいたほうがよい。
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狩野哲郎は1980年宮城県生まれ。2005年東京造形大学造形学部デザイン学科環境デザイン/都市環境コースを卒業した後、2007年に同大学院造形研究科美術研究領域修士課程/絵画コースでMFAを取得。これまで、「取手アートプロジェクト」(2004年、茨城)、「SEOKSU ART PROJECT」(2010年、韓国)、「NEO-TOPIA ネオトピア」(2010年、秋吉台国際芸術村)、「吃驚 BIKKURI」(2010年、国際芸術センター青森)など数多くのレジデンスや滞在制作型のプロジェクトを中心に作品の制作に取り組んできました。主な個展に「自然の設計/Naturplan」(2011年 ブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクト、東京都現代美術館 )、グループ展に「呼吸する環礁―モルディブ-日本現代美術展」(2012年 モルディブ国立美術館)、「庭をめぐれば」(2012年 ヴァンジ彫刻庭園美術館)などがあります。
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