指江昌克(さしえ・まさかつ)は74年金沢市に生まれ、以来現在まで金沢にて制作活動を続けています。その作品の多くはキャンバスに油彩で描かれ、瓦礫の山に浮かぶ球体の街は彼の代名詞ともいえるモチーフで、瓦礫は主に消費文化や近代化に伴うスクラップ&ビルド、時に戦争や災害のもたらす日常生活の崩壊を象徴します。
私達は指江の作品から「いつか見るかもしれない景色」の中に浮かぶ「いつか見たことのある景色」を見つけることが出来ます。それは現在の見慣れた世界が内に秘めた可能性のひとつ、パラレルワールドとしてこれまで多くの鑑賞者に未知と既視との混在する驚異的な印象を与えてきました。それは指江特有の遊び心と合わせて、私たちの想像力を強く刺激します。しかしその内奥で指江の示唆してきた世界は、3月11日以来私たちが実際に見つつある世界をいみじくも予見し続けています。例えば現在の消費社会の表象として時折、原子力の火を瓦礫の中に痛烈に登場させていたように。
今展のタイトル「見えざる手*」は市場経済の原型を成し、巨大な市場と文明の加速度的な発展を、そして金融危機と数多くの社会問題を、それに伴う複雑な制度や規制を次々に生み出し続ける社会を表わしています。70億人もの個人が日々生み出し続ける瓦礫の中に立つ都市は、「見えざる手」によって作られているこの世界そのものです。その上に超然と浮かぶ球体に、指江は何を示唆し、そこに私達は何を見るのでしょうか。
今展では高さ3.3mのふすまを使った作品を中心に、5点の新作で構成されます。精緻な観察と対比によって生み出されるのは、この世界を真摯に映し出す鏡です。
※見えざる手...アダム・スミス(1723-1790)の著作『国富論』にて指摘された市場経済の調整機能。個々人の利益追及が結果的に社会全体の利益を生むとする。「神の見えざる手」ともいわれ、市場経済の基礎的概念として多く引用される。
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