クワン・シャンチ(1980年生まれ)は、2005年に開催された香港アート・ビエンナーレ(香港美術館)において、母親の記憶を基に作家が造った茶卓「Teapoy」を出展、家族の歴史や人間関係を可視化したインスタレーションで、一躍脚光を浴びました。近年精力的に取り組んでいる映像作品は、国際的にも注目されており「Videozone V」(2010年、イスラエル国際ビデオビエンナーレ、テル・アビブ)や「Homemade video from HongKong」(2011年国際現代美術センター、サンクトペテルブルグ、アラド美術館、ルーマニアほか巡回)など数々の国際展に招待されています。
クワンの映像作品に共通するのは、成功と失敗や、達成と未完のように、相反する葛藤の継続をテーマにしている点です。例えば、フォークを使ってコップに入ったホット・チョコレートを全て飲み干す行為を記録した「Drinking a glass of hot chocolate with a folk」や、作家本人が右手と左手でじゃんけんを繰り返しながら勝率を数える「Left vs. Right」の一見無為な繰り返しの中に、私達は二律背反する人生の摂理を見出すことでしょう。また、本展のために新しく作られた「ONE MILLION(JapaneseYen)」では、僅か数枚の紙幣を数える行為を編集上で何度もリピートすることで百万円まで数える映像作品ですが、そこには貨幣制度の本質や、マネー・ゲームに代表される実態を伴わない経済活動についてのアイロニカルな視点が表現されています。
今回は書物でいうところの「作品全集」という意味をもつ「Collected Works」を展覧会タイトルとし、ビデオのみならず立体作品を含む様々な表現形態の作品を展示します。「Apple Core」はリンゴジュースのパックを素材とした作品ですが、ギャラリーの空間に置かれることで、鑑賞者は、スーパーマーケットとは異なったコンテクストの中で、私達が何を消費しようとしているのか考えさせられることでしょう。
一方、「Lilies」は、一見花瓶に活けられた百合の花束ですが、よく見れば、それぞれ製造元の異なる百合の造花を集めたものであることに気付きます。各工場ごとに異なった理想像に基づいてつくられた花々は、共通の目的を持ちながらも、それぞれ異なる外見を有しています。また究極の美しさと永遠性を追求しながらも、フェイクでしかあり得ないという残酷な現実は、誰しもが一度は味わう人生の苦い経験を思い出させます。
クワンは1980年香港生まれ。香港中文大学で芸術学を専攻し、2003年に大変優秀な成績で卒業しました。在学中から作家としての将来を嘱望されており、2002年に行われた「クワン・シャンチ展示巡回展in香港」と題した個展は、香港の主要な10カ所の会場を巡回、大きな話題となりました。2003年よりフォータニアン・アーティスト・コンプレックス(火炭芸術村)にスタジオ構え、作家活動のほかに、ウェブチャンネル「香港・アート・ディスカバリー・チャンネル(HKADC)」や政治、社会、コミュニティ問題とアートの関係を掘り下げることを活動目的とした「hkPARTg(Political Art Group)」 や「Woofer Ten」といったアドボカシーグループの共同設立者も務めています。2009年にはアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)からスターファンデーションフェローシップを得てニューヨークで滞在制作を行いました。
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