蛭子未央(1987年・東京生まれ、武蔵野美術大学卒業)は、例えば幼少時に体感した圧倒的な自然との一体感を、都会に暮らす現在において呼び起こすための装置として、絵画を描きます。キャンバスの切れ端にモノトーンで描かれた「アーバンライフ」シリーズに対する「ネイチャー」シリーズとも呼ぶべき作品群は、幼少期のイメージを頼りに、都会にいながら脳内で摩周湖や阿寒湖から臨んだ山並みや熊本の米塚などを訪れ、壮大な自然のイメージに全身を包まれながら描いていきます。
またあるいは、ダウンジャケットの膨らみであったり、ライトに照らされた雨の滲みであったり、身近な空間にふと現れた「質感」を呼び起こすために描きます。
作画よりもそのイメージに身をゆだねて自らが体感することを目的としているため、画面そのものの筆致は軽く、その軽い扉を開けるようにして鑑賞者は作者の脳内に広がり、作者の全身を包んでいる爽快感などを共有することが可能です。
デュビュッフェが命名した「アール・ブリュット」の概要に、美術教育を受けた蛭子の作品は当てはまりませんが、明確な目的を元に制作された作品は、そのために純度が高く、画面に広がる、あるいは画面の先に広がるイメージを感じ取り、身をゆだねることができれば、鑑賞者はその世界観を体感することができるでしょう。
小学校の時 長期休みの度に父の赴任先である山村で過ごしていました。
東京の家で過ごす日常とは違い学校も友人も店もTVもない環境は非日常の世界でした。
景色を見ては空想し、あの山、木、川のもっと内には目に見えない世界があるのだろうと。
ここではないどこかの別の世界が少しでも見えたときその景色を見ていたいその一部になりたいと強く願ってしまいます。
都会に戻ると人間であふれていて、数センチの距離に他者が侵入してくるため都会の人は個々の存在を消し孤独を自ら作り出します。
そんな瞬間周りから断絶された別の世界がその人達から見えてくるので、それらと接点を作り、関係を結ぶためにイメージの断片をなぞっていきます。
その熱が強ければ強いほどその世界が絵として現れてくれます。
蛭子 未央
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