野原は、ペインティング、ドローイング、立体、インスタレーションと、幅広い制作を続け、独自の世界観を表現してきました。日々の生活の中、ふとした瞬間に感じる違和感や疎外感、鏡やガラスに映る反転世界の中に想像する非日常など、野原の作品は常に現実と非現実の危うい境界線上にあります。
「気になったものをランダムに寄せ集めていくと、意味が生まれる直前の状態に近くなる。」と、自身の制作について説明する野原の言葉は、その作品におけるイマジネーションと形態の希有な結びつきについての理解の助けになるように思います。野原の作品は、ペインティングでも立体でも、ファウンドオブジェクト的あるいはコラージュ的に、様々な素材/要因を引っ張り込んだ、ある種混沌とした世界観がまず目を奪います。その構成要素の一つ一つは、普通に見ればゴミ、あるいはガラクタ同然のものではありますが、しかしそれは、野原が日々観察し、何故か「気になった」という野原にとっては特別なものです。この「気になった」という動かしようのない磁力のような結びつきが生まれたことで野原のイマジネーションが加速度的に解放されていきます。それら「特別な」素材を寄せ集めていくと、例えば人が思考する際に言葉や五感など様々な情報を重ね合わせていくように作品の中で重なり合う様々な要因が、野原自身想像だにしなかったような面白い現象を起こしたり、予想外の意味が生まれてくる、その瞬間を作り出すことこそが、野原の制作に対するモチベーションとなっているのだと先の言葉から感じます。
今回は初めて映像作品を主体としたインスタレーションを展示します。日常的に写真や映像を撮り、物体以外の「気になった」シチュエーションを集めている野原ですが、これまで映像や写真を作品として発表した事はなく、新たな展開と言えますが、作品としてはこれまで通り、「気になった」ものを寄せ集める、ということに終始しています。電車の窓を流れていく雨の夜景、盆踊りを踊る人々のシルエット、波、蜘蛛の捕食、電波不安定なラジオの音楽、それぞれはやはり書き連ねたところで繋がる点は見出せませんが、野原の手にかかると全てがパズルのピースのように噛み合って、すっと異世界への境界線上に誘い出されたように、妙に納得させられてしまいます。「とびとび」という今回の展覧会タイトルは、野原自身ですら自覚する程に飛躍したイメージの結びつきが、映像という新たな手法によってより強固に表現されていることに因みます。新作の映像作品の他、ドローイング、立体作品も交えた展示構成となっております。
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