ビジュアル・アートの分野に限らず、映像製作、伝送、投影技術の目覚しい発達は私達のライフスタイルを劇的に変化させてきました。3Dのリアルな映像や、大容量動画配信システムとインターネット網により、PCの前に居ながらにして、私達は世界中のあらゆる出来事を疑似体験することが可能となりました。
同様に音声合成ソフトは、歴史上の人物の声を再現し、文字変換ソフトはテキストを音声にして配信するなど、一昔前のSF小説の中の出来事が現実として存在しています。
一方で、日々大量の映像や、音(声/楽)に晒されることで、私達の視覚、聴覚は鋭く研ぎ澄まされるどころか、むしろ退化しつつあり、必要な情報を取捨選択、再構築して自らの記憶に留めることすら、コンピュータやストレージの中に「とりあえず保存」することに譲り、放棄してはいないでしょうか。
旧東急東横線・桜木町駅舎内で、映画の起源とも言うべきリュミエール兄弟の蒸気機関車をCTスキャンして見せた"X-RAY TRAIN"で話題となった姉弟アート・ユニットSHIMURA BROS.。
そのSHIMURA BROS.による横浜赤煉瓦倉庫「ART RINK」で発表された高さ9メートルの巨大なインスタレーション作品"HIBERNATION"で音響パートを担当、「EXPERIMENTAL SOUND, ART, AND PERFORMANCE FESTIVAL 2010」で最優秀賞を受賞後、当ギャラリーでの個展や、ART TAIPEIでのパフォーマンス"etude no.39 インスタントヌードル"も記憶に新しいmamoru。
今回は、SHIMURA BROS.のケンタロウと、mamoruがスペシャル・ユニットOVAR(Origin of Visual Audio Research)を結成し、実験的な新作を発表します。
映像と音の組み合わせにより時間上にダイナミクスを作り、ストーリーを生み出すというオーディオビジュアルの基本的な構造に対するリサーチとして、逆再生、カメラワークの変化、サウンドの再生トラック数の変化により、既存の「過去ー現在ー未来」をベースとした一方向時間ではない、複数次元時間に対する認識の映像化を試みます。
また、「赤坂アートフラワー08」で料亭の畳に刺された夥しい待ち針をスクリーンに見立てた映像作品以降、「あいちトリエンナーレ2010」や「黄金町バザール2009/2010/2011」では、屋外のひさしや道路など、ホワイト・キューブを飛び出し、あらゆる場所での映像展示を試みてきた志村信裕は、ギャラリーのそばを流れる神田川の護岸に"Goldfish"と、"Pool"の2作品を投影します。※
天候、暮れゆく陽の光、同じ姿を留めることのない水面の動き、護岸への反射といった環境の変化が、一瞬一瞬全てが異なる一期一会の作品世界を創り出すことでしょう。
OVARと志村の試みは、情報過多な環境の中で麻痺しつつある、私達の映像や音に対する知覚力、すなわち外的刺激を自覚的に再構築し、経験として蓄積する力に対する問い掛けと言えます。
今回は本展を構成する作品に共通する重要な要素である"光"と"音"と"記憶"について、その根源、本質に迫りたいとの思いから、展覧会タイトルをラテン語で"Lumen""Sonus""Memoria" としました。また、プロジェクターの輝度を表す単位がルーメンであることも重要な意味を持っています。
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