紙の上に黒い染みが生まれる。黒から濃紺、紫、と混ざりあいながら紙の上に染み広がっていくと、染みの中から次第に明け方の海辺の風景が目の前に開けてゆく。白昼の水色から夕方のブルーグレーへ、染みは色彩を変えながらますます広がり画面いっぱいに溶け出し、流れはじめる。いつしか気づけば風景も歪みはじめ、画面の中で染みと一体となりながら溶けて流れる。溶けかかったグレーの海を横切るように進む一艘の船。逃げるように岩陰から鳥は飛び立ち、消滅しかけた赤紫色の海を眺める私の目の前を横切り、フレームの彼方へと羽ばたきながら消えて行った。
小瀬村真美
小瀬村真美はデジタルカメラで撮影された膨大な数の写真を、彩色や変形などを加えさせながらつなぎあわせた映像作品を制作しています。
今回の個展で発表される新作は、2010年10月、ロンドンのロイヤルアカデミーで行われたNY環境建築家Diana Balmori氏のレクチャーに合わせて制作された写真作品を使っています。和紙にジークレー・プリントで印刷されたイメージの上に水彩で加筆されたドローイングは、これまでの小瀬村作品同様、時間のながれに着目したものになっており、2007年発表のイングジェットでプリントアウトした架空の風景写真のインクを溶かして再撮影した作品 「Under Water」がベースになっています。
最新映像インスタレーション作品のほか、写真ドローイングを展示いたします。
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