淺井裕介(1981年生まれ)は、常に描く場所やその場が培った時間に注意深く耳を傾けながら、絵を描いています。それは一般的な絵の概念だけに収まらず、場所や素材を制限せず、泥、埃、マスキングテープ、小麦粉など現場に立ったときにイメージした方法で、独自の創造力で表現していきます。まるで描く行為が息をすることと同じように、電車など移動しているときや食事をしている間でも自然に手が動く淺井にとって、生きることと直結し、さらには場などの周縁の持つ力をも汲み上げて、「生」の根源を視覚化するものとして「絵」が存在しています。湧き水のように絶えず次から次へと描く溢れ出るエネルギーで常に新しいことに向かい合い、実感しながら描く姿勢、生きる姿勢そのものが淺井裕介の絵画表現となり、毎回観る側を圧倒させるのです。本展では、このように勢力的に制作し続けている淺井が創り出す様々な作品の中で、公共スペースなどの大空間や商店街などで制作される、マスキングテープの上にマーカーペンで描く作品「マスキングプラント」から再制作をした「標本」作品を中心に展示いたします。
「マスキングプラント」は、マーカーペンによって植物や生き物らしきモティーフが描かれたマスキングテープを張り巡らし、一見奔放に創られていく作品です。建物内の壁面や天井など目に入る空間全体が、大きなキャンバスとなり、終わりなく息づいていくダイナミックな世界を描いていきます。
そして展示が終わると、完成されたそれらの「マスキングプラント」から、描かれたマスキングテープを収穫し(全て剥がして持ち帰り)、その後それらテープ(=種)を手で契りながら白い紙面にコラージュして、全く新しい平面作品、「標本」として再生させます。新しい息吹を与えるかのように無心に、まるで油彩画のように手で積層させて制作した「標本」は、「マスキングプラント」とは対称的に紙という定められた枠内につくられた凝縮された小空間として全く新しい作品へと生まれ変わるのです。今回は、今年7月武蔵野市にオープンした図書館を中心とした公共施設、「武蔵野プレイス」の開館展示として、地下1階から4階全館を使い開催した展覧会「根っこのカクレンボ@武蔵野プレイス」にて収穫した素材(=種)を使って標本作品にしたものを中心にインスタレーションを行います。展覧会のタイトル「パギとソレ」は、インドネシアの言葉「パギソレ」からとっています。「パギソレ」は一枚の更紗の右と左に違うモティーフがあるものをいい、「パギ」は朝、「ソレ」は夕方のことを意味します。淺井裕介作品の多面性のある表現、さらには輪廻天性のごとく切れることなく繋がっていく世界を是非お楽しみください。また同時期、10月29日より東京都現代美術館で開催される「MOTCollection」での、展示室一部屋を使い泥絵の現場制作、及び展示(2012年1月15日まで開催)など、都内を中心に数カ所で淺井裕介の作品が見られます。
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