正木は無数のドットと小さな円で画面を埋め尽くし、おぼろげな風景や人物を描き上げます。
正木の取り上げるモチーフには一つ共通点があり、それは、全て実在していて、何らかのマス
メディアによって既に広められている画像を元にしている、ということです。大勢の人の目に
触れたであろう画像は、正木の手によって再び再構成され、ギリギリ原型を留める程度のグラ
デーションに変化します。それは、見聞きしたものを一旦心の中に留め置いて、咀嚼し整理す
る、正木の思考の流れそのものなのだと思います。
--- 作家ステイトメント ---
私たちは今、テクノロジーの発達により1個人が膨大な量の情報を受信でき、自らも発信できる環境に生きています。
自分の肉体と離れたところでの出来事を従来のマスメディアに加え、多くの他者と共有できる状況において、「知る」という行為は身体性を刺激し、経験としての意味合いを深めているように感じます。
今回の展示では2009年9月から2011年6月の間に起こった事件と災害をテーマにあつかった8枚の絵画を制作し、そのうち5枚は「黒煙」を、3枚は「竜巻」をモチーフとして選びました。
それらは近年メディアをとおしてみる機会の多かった風景で、その国の政治、経済、宗教、土地などの差異を超えて自らの環境に関連する「連鎖」の感覚を感じるものであったからです。
私の作品は多くの点の集積によってできていて、それはイメージを具現化する絵の具の塊であり、1人の人間の時間の痕跡でもあります。
ある事件や災害はデータ化されてしまえば情報になってしまうけれど、その出来事を肉体をもって経験した人にとっては人生に1度きりの体験です。それが映像や写真によって反復され世界に共有されていく時に生じるズレをすり合わせようとすることが
少しでも世界を「知る」ことに近づけるのではないかと思います。
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