私たちは今、目で音を聞き、耳で絵をみている。
藤本由紀夫
トーマス・エジソンがphonograph(蓄音機)を発明する20年前、1857年に印刷技師のレオン・スコットにより世界最初の録音=音の記録がなされました。それは音の振動の軌跡を描いたのもの、つまり音を再生不可能な視覚情報として記録したものでした。これは聴覚情報が視覚情報へと変換された最初の事例だったのかもしれません。
「PHONOGRAPH-P」、「PHOTOGRAPH-P」という2つの作品は、phonograph、 photographがnとtの、一文字違いであることから写真とは何かということを考え始めたと作家は言います。アルビューメンプリント(鶏卵紙)の印画紙を自ら制作し、phonograph/photographの文字の形を針で穴をあけたキャンバスを上にのせて、日光写真の方法で制作されています。その文字の穴の一つ一つがピンホールカメラとなり、印画紙の上に太陽の姿、運行を投影しています。それは私達が普段、写真と呼ぶものからは大きく隔たった、音と光の記録です。
21世紀の今、視覚と聴覚はテクノロジーの発展により新しい関係を生み出しています。視覚情報、聴覚情報の区別を越えて、この新しい世界の中でみずからの目と耳を柔軟に使いこなすことが重要になっているのです。
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