北浦凡子は1977年東京生まれ。イタリアのFABRICA(ベネトン出資のアーティストレジデンス)を経て、フリーランスの写真家として日本、イタリア、イギリス、フランスを拠点に活動を続けています。作家として初の個展となる本展では、近年撮影された花の静物写真、Domestic stillsを発表いたします。 被写体の花には手が加えられ、その痕跡が残されています。花弁に糸を通して吊るしたもの、油で揚げたもの、洗剤に浸したもの、原型が崩れるまで洗い続けたものなど、その状態はさまざまです。表面の微細な皺さえも写し出す距離から、張力で引きちぎられるような危うさや、変質した花の姿を北浦は捉えます。被写体は肉体的な感覚を伴い、画面全体に不穏な空気が漂います。 美しさ、可憐さ、官能の象徴である花は、日常的に多くの人に撮られています。人々は美しさを永遠化するために、映像を印画紙に焼き付けるのです。しかし北浦の場合、写すのは花そのものではありません。その眼差しは花の上に起る「出来事」へと向けられます。象徴性の高い被写体の上で、出来事の意味が鑑賞者の想像力によって多重に掻き立てられるのです。 世界が変転を続け、さまざまな出来事が現れては消えて行く中で、北浦の写真は花という「もの」を通してうつろう「こと」を強く喚起する展示となるでしょう。
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