2006年、朝海は映画を観ている人々を撮影したシリーズ作品「sight」シリーズをスタートし、「第9回フォト・プレミオ 特別賞」「さがみはら写真新人奨励賞」を立て続けに受賞しました。また東京都写真美術館で開催された「日本の新進作家 Vol.7 オン・ユア・ボディ」展をはじめとする様々なグループ展への参加により一躍注目を集める存在となりました。
今回はその朝海の代表作となった「sight」の写真集刊行にともない、「sight」ならびに朝海の新シリーズ「Conversations」も同時に発表します。
写真集「sight」の発行者である赤々舎では、写真集の出版記念を兼ね、オリジナルプリントを展示します。「sight」は、被写体となる人物が自ら映画を選び、自宅でリラックスしながら映画を見始め、映画に没頭して無防備な状態になったころ、朝海がそっとシャッターを切ったシリーズです。写し出された被写体の服装や表情、部屋のインテリア、タイトルとなっている映画題名と都市名などの情報からは、被写体の人物像や日常を想像することができます。
朝海は全6ヶ国9都市で撮影したこの「sight」で、「被写体が映画を見ている」という極めて日常的行為の中、「見ること」と「見られること」が同時に進んでゆくさまを鮮明に写し出しました。
1本の映画という時間の中から切り取られた一瞬の光景には、映画の上映時間だけでなく、見ている人の日常の時間やその人の人生という長い時間も同時に織り込まれています。
一方、無人島プロダクションで発表する新シリーズ「Conversations」では、科学者の研究室を訪ね、研究に没頭する研究者の姿や研究室の風景、実験に使われる道具をカラー写真で、そこに研究の断片を彷彿とさせる光景などを捉えたモノクロ写真をおりまぜて発表します。このシリーズで朝海は、研究室へ通うことを「科学とかけ離れた生活をしている自分にとって"科学"は外国語と同じである。そして分野や場所によって文化の違う研究室を訪ねるということは言葉が通じない国を旅する感覚と似ている。」と語っています。と同時に、科学者が研究の中で新たな発見を見い出し続ける行為もまた「旅」であるといえるでしょう。先へ、未来へと進もうとする科学者の視線を追いつつ、そこで出会ったさまざまな人や物から得た新たな価値観やものの見方の変化によって自分自身も見知らぬ世界に旅をしているーー朝海がこの未知なる「旅」の中で研究者たちと対話することが写真となってあらわれた光景がこの「Conversations」です。
「sight」では、被写体自身が内に向かう没入状態でありながらも、朝海は映画という共通言語で撮影時に被写体に感情移入しつつ、状況を俯瞰して撮影したことに対し、「Conversations」では被写体が外(研究対象)に向かって没入しており、非専門家の朝海は研究者と同じ視点に立つことはなく、したがって自身の旅行記の体裁をとっています。
それぞれの世界へ向けた朝海のまなざしを彼女独特の距離間で撮影した2つのシリーズを是非ご紹介いただきたく、どうぞよろしくお願いいたします。
同時開催:朝海陽子展「Sight」 2011年1月15日(土)~2月19日(土)
会場:赤々舎
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