20世紀における科学技術の進歩は、工業製品の大量生産を可能にし、商業とサービスを拡充させ、大衆消費社会をもたらしました。商品を宣伝するために、映画や演劇を告知するために、そして社会にメッセージを発信するために、ポスターは目覚ましい発展を遂げます。グラフィックデザイナーという職能が画家や建築家に匹敵する社会的な地位に引き上げられたのも、この世紀に入ってからのことです。ポスターは今やすぐれたグラフィックアートであり、現代の都市を彩る視覚文化のひとつとして欠かすことのできない情報メディアの役割を果たしています。
原弘
《日本タイポグラフィ展》1959年
特種東海製紙株式会社蔵
©Hiromu Hara
15世紀のグーテンベルクによる活版印刷術の発明以来、金属活字を手作業で組み、凸状の版面にインキを塗って、紙に押圧する印刷プロセスはおよそ450年間変わりませんでした。しかし19世紀末頃から、職人の手仕事は機械にとって代わられ、第二次大戦後には機械が情報機器に置き換えられてゆきます。金属活字から写真植字へ、そしてデスクトップ・パブリッシング(DTP)へと、3世代にわたる技術革新が起こる中、手段を超えた美しい文字の表現とその技法が「タイポグラフィ」と呼ばれるようになります。とりわけ、大きなサイズに印刷されたポスターのタイポグラフィは、激動の世紀を生きる人々に向けてさまざまな言葉を投げかけ、彼らの視線をとらえながら時代をつくり出してきました。そのような文字のデザインは、国や地域によってどのように異なるのでしょうか。時代の変化によってどのように動いてきたのでしょうか。そしてそられは、現代の私たちにどのような表情で語りかけてくるのでしょうか。次世代の情報メディアと社会のつながりを展望する上でも、20世紀のタイポグラフィ表現は貴重な指標となるでしょう。
ブルーノ・モングッツィ
《「結婚」オスカー・シュレンマー、イゴール・ストラビンスキー》
1988年
©Bruno Monguzzi
この展覧会は、3,200点に及ぶ竹尾ポスターコレクションの中から、とくにタイポグラフィを中心に扱った20世紀のアメリカ、ドイツ、スイス、イタリアなどのポスターを厳選し、さらに優れたタイポグラフィ表現をもつ戦後日本のポスター作品とあわせて、約110点を一堂に展示します。20世紀を代表する世界のグラフィックデザイナーたちの文字をめぐるポスターデザインを一覧できる、わが国で初めての本格的な展覧会になります。
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