シーツやベッド、クッションなど人の肌に触れる布を描いてきた、長谷川。
昨年の個展から約一年、「昨今、私の制作は部屋と絵画に迷い込むことでもある」と長谷川は言う。
持ち主の肌と密に接する存在でありながら、その持ち主が不在のものや空間を描く中で、
四角いキャンバスの上で四角い部屋に置かれる四角いベッドやクッションの触感を探る中で、長谷川は現実と作品世界の迷路に迷い込んで行く。
「より良い構図をさぐり、自室や旅先の部屋、雑誌や写真集で見たベッド、誰かの持ち物の山を描く。それはどれもが人の気配を帯びている。顔の見えない誰かの気配は不穏な感覚を呼ぶ。また、寝具や部屋は持ち主不在の風景であるとも言える。そんなことを考えながら、布の柔らかさや質感を捉えようと描いている」
キャンバスに詰め込まれた、温かそうなベッド、かわいい魚模様、肌触りの良さそうな布。
これらは、どこにある誰の部屋の誰の持ち物なのだろうか。
ごく私的な空間は、実は複数の何者かに属する気配の集積であり、それらはまろやかな色で包まれてはいるものの、今も静かに唸り続けているのではないか。
「ふと、手に持った筆先がクッションの柄をなぞっているのか、キャンバスの表面をなぞっているのか、わからなくなる。ベッドの向こうの壁の奥行きを捉えているのか、ただキャンバスの上で絵の具を塗っているだけなのか、わからなくなる。四角い画面に四角いクッション、四角い格子模様。スパイラルに取り込まれていることに気づく」
長谷川が作り上げ、そして迷い来んだ迷路。
作品が発する温かくて不穏な空気は、見る者をその迷路の中に誘う。
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