キム・テクサン(金澤相)は1958年韓国ソウル市生まれ。1985年に中央大学美術学部を卒業し、1987年に弘益大学大学院美術研究科修士課程を修了。現在一山市在住。東京を中心に精力的に作品を発表しています。
自然の痕跡
彼の作品をより深く理解しようとするならば、その制作プロセスを知る必要があります。
キム・テクサンはその制作において、筆もペインティング・ナイフもパレットも使いません。「水で描く」と彼は微笑みますが、水と重力、自然に描かせると言ったほうが正確かもしれません。
まず、彼は特別に用意した長方形のプールにキャンバスを浸し、アクリル絵の具を溶かした水を注ぎます。注がれた水はその痕跡をキャンバスに残しながらゆっくり蒸発していきます。季節や気候に応じて、水は様々に異なる模様を残します。この制作過程において、作家はただひたすら待つのみです。そして適当な時期を見はからって排水し、キャンバスを乾かします。この工程を何度も繰り返し、キャンバスに色の層を幾重にも重ねていくのです。
時間の絵画
こうして制作されるキム・テクサンの作品は水の痕跡そのものであり、樹木の年輪と同様、時間の痕跡でもあります。彼がなすべきことは、時の流れが痕跡というかたちで自らを現わす環境を整えることに尽きます。
自然の色彩
キム・テクサンにとって色彩を加えることは元来、時の流れ、季節あるいは自然をキャンバスの上に可視化するために必要とされる手段にしか過ぎません。透明な水だけではそれらを私たちの目に見えるかたちにすることができないからです。そしてそこで便宜的に使われる色彩は、自然界に存在する現象から選ばれています。夕日の赤色、水や空の青色、樹木の緑色、太陽の黄色などです。時間をかけてゆっくり制作される彼の作品は、時間を経ることで得られる成熟や熟成という感覚や観念を見る人に与えるような色彩、柔らかで優しい色彩に覆われています。
昨年暮れから今年初めにかけて佐倉市の川村記念美術館で行われたグループ展「静寂と色彩:月光のアンフラマンス」にも参加しましたが、彼の作品は多くの観衆を惹き付け大きな関心をよびました。
タグチファインアートにおける今回の展示は、彼の日本で3度目の個展となります。近作で彼は画面に余白を大きく残し、見る人に制作過程を想起させることにも成功しています。ぜひご高覧下さい。
〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町2-17-13 第2井上ビル4F
TEL:03-5652-3660