今展では、若林奮氏の制作活動の全体像を探る上でも重要な鍵といえる「振動尺」という概念を、若林氏自身が2002年に再考、展開させようと試みた作品のひとつ「水没」シリーズより、立体作品「水没 I」「水没 II」およびドローイングを展示いたします。
「... 風景として集約されるような事柄。地質のこととか、気象とか、動物、植物、鉱物といった人間に関わる以外のものを見る機会が多くなる。人間についての唯一のものは、人間が描いた最初の絵はどのようなものであったかということです。... 美術の背景として大きな自然があったのです」
「彫刻は対象化した人間などは表現しない。むしろそれを行う人間の思考なり行動を表明するものと考えるなら、これは人間全体のことではなく、私個人のことになります。ここらあたりから出てくる問題によって気づいたことが、《振動尺》の発想のひとつになったのです」
(若林奮インタビュー : 2002年豊田市美術館発行図録 pp.102-103)
洪水や川の増水によって一変する風景を俯瞰するかのような「水没」。
自身と対象の間を満たす空間を測る尺度としての「振動尺」によって、若林氏は、間あるいは空間にある不確かなものを探ろうと試み、作品化してきました。若林氏はまた、自然界と人間との間の存在として、犬や犬の視点を作品に取り入れてきました。大量の紙片の集積による作品からは、時間という要素とも向き合った作家の姿が浮かび上がります。
1970年に若林氏が始めた考え方のひとつで、初期の作品タイトルにもなっている「振動尺」の再考、犬の視点、そして青く着彩された紙片の連なり。最晩年の作品、「水没」シリーズにより、若林氏の思索の跡を探ります。
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