《黙示録》――ヨハネがイエス・キリストから啓示されたという、新約聖書の最後を飾る預言書――は、現世の終末の様子が記された異例の教典であり、西洋美術においてたびたび視覚化されてきました。この黙示録図像は、いまから約500年前に決定的なイメージを獲得しました。それは、ドイツ最大の画家・版画家、アルブレヒト・デューラー(1471-1528)による豪華な木版画集である《黙示録》連作(1497-98/1511)によってでした。
アルブレヒト・デューラー 《聖ミカエル、竜を倒す》(『黙示録』より) 1497年頃 木版
メルボルン国立ヴィクトリア美術館 ©National Gallery of Victoria, Felton Bequest, 1923
デューラーの《黙示録》が登場する時代、ヨーロッパでは印刷技術の向上によって、活版と木版挿絵を組み合わせた木版本が大量に出版されるようになりました。デューラーの《黙示録》は、書籍というメディアの先進性に着目し、当時の版画の概念をはるかに超える豪華な版画集を刊行したのです。この《黙示録》は、単なる書籍挿絵としてではなく、絵画に引けをとらない版画芸術としての輝きを放っていたのです。
デューラーの壮大な《黙示録》のインパクトは大きいものでした。その影響は、同時代のみならず、時代が下った19世紀においても見出されます。デューラーが制作した約400年後、フランス人画家オディロン・ルドン(1840-1916)による《聖ヨハネ黙示録》(1899)には、デューラーからの影響の痕跡を見ることができるのです。
この展覧会は、デューラーの《黙示録》連作を中心に、西洋美術における黙示録図像の変換を、中世末期から近代までたどるものです。
本展覧会は3部構成となっております。第1部では、1500年という節目の時代に生み出されたアルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer,1471-1528)の《黙示録》連作(およびその書籍版)に焦点を当てます。その造形と図像表現の源泉をたどりながら、この大作が同時代に与えた影響に注目します。
第2部では、ドイツの宗教改革の時代における黙示録図像に注目します。16世紀ドイツの版画家マティアス・ゲールング(Mathias Gerung,1500頃-68/70)の《黙示録註解》を紹介し、同時代の宗教と図像表現との関係を考察します。
第3部では、近代の黙示録連作として最も重要な、オディロン・ルドン(Odion Redon,1840-1916)による黙示録連作に注目します。この作品は、デューラーという偉大な先例に触発されて生み出されましたが、様々な先行作例からの影響、そして同時代の文学との関連性を見ることができます。伝統と近代との間でルドンの連作がいかに生み出されたかを概観します。
オディロン・ルドン 《・・・之に乗る者の名を死といひ》 (『聖ヨハネ黙示録』より) 1899年 リトグラフ
国立西洋美術館
なおこの展覧会は、同時期に国立西洋美術館で開催される「アルブレヒト・デューラー版画・素描展」の関連企画でもあります。この機会にぜひ、「黙示録」の幻想的な世界をご堪能ください。
※会期中、一部作品の展示替えを行います。ご了承ください。
東京都台東区上野公園12-8
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)