電子書籍の時代が到来したといわれる今日でも、大きさや重さ、手触りを備えた紙の束としての「書物」は、色褪せるどころか、むしろその魅力と存在感を増しているようにさえ思えます。
書籍にさきがけてデジタル化の波に洗われた写真の世界においても、「書物」、すなわち写真集という表現媒体は、近年いっそう注目されています。
写真家 鈴木清(1943-2000)の作品を顧みるうえでも「書物」は重要なキーワードです。読書家であり、愛読書から得たインスピレーションをしばしば自らの写真の指針としたということだけでなく、彼自身の写真集が、いずれも「書物」と呼ぶにふさわしいものだったからです。
最初の写真集『流れの歌』(1972年)以降、早すぎる死を迎えるまでに、彼は全部で8冊の写真集を発表しますが、1冊を除いていずれも自費出版で、編集やデザインも多くの部分を自ら手がけました。最終的なかたちが定まるまでに、いつも鈴木は何冊ものダミーを制作し、試行錯誤を重ねたのです。
鈴木清〈夢の走り〉より 1983年
炭鉱という自らの出自に関わる場や、同時代の社会、旅の時間や文学作品などをモティーフに、眼の前の現実と夢や記憶が自在に交錯する、重層的な作品世界が展開された鈴木の写真集は、まさに繰り返し読み込まれるべき「書物」としての奥行きを獲得しています。
今回の展覧会では、写真集と同様、入念に構成されていた鈴木の個展におけるインスタレーションも参照しつつ、〈天幕の街〉(1982年)、〈夢の走り〉(1988年)、〈修羅の圏〉(1994年)などの代表作を中心に、その仕事を紹介します。
鈴木清 個展(「デュラスの領土1」)のためのスケッチ 1996年
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