及川恵子が描く風景はいわゆる普通の風景ではない。そびえ立つ大樹の枝ぶり、植物の異常ともいえる繁茂、奇妙な色と筆致。これらがすべて圧倒的な生命力を感じさせるのである。作品に対面してみると、鬱蒼とした森の中に迷い込んだようにちょっと怖い様相でもある。
また、構図としては、低い視点がとられていて、眼前の風景を"見上げる"ような構成になっている。したがって、そびえ立つ木の頂きを確認することができない。小さな少女が、目の前を見ているようだ。それだけでなく、群生する植物も視界に収め切ることは全くできない。
その風景は、及川自身の"記憶の彼方の"原体験の一部であることは容易に連想できそうだが、色彩とかたち、そして空想が、現実の世界を「浸食」したところをそのまま描いたものが彼女の表現であるとか、また、幼少期の少女が想像の世界に遊び、そこに現実を投影させたもの と言ってしまうと、それは見誤る可能性がある。
及川が縦横無尽な色と筆跡と線などで表現するものは、本人のごく私的な感受や、最近目撃した幼い頃の自分の幻覚などを元に交信している、"場"のもつ空気や、そこに宿り潜む生命の力や、感覚を開放して感じ取った刹那の記憶である。
さらに、"私という生命体"×"遍し生命体"の交わりが織りなす神々しい"生"の不可思議さを正に思い描くこと。また、それは、人と人の周りの[いのち]との関係に思いを馳せることに拡がっていくだろう。
その提示された及川の創作に直面して、それらの生命力と及川の精神力の瑞々しい共存の息吹を感じ取ることは、鑑賞者自身の生き様を見つめ直すきっかけになりうるであろうか。
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