花。それは美しいものの象徴として、季節を彩るものの象徴として認識され、私たちの生活に根付いています。ある種の癒しを与えてくれる色彩豊かな花は、時に写真に収められ、また描かれてきました。いずれ枯れていってしまう美しい花のその時を、ずっと見ていられるように。
永瀬武志がエアブラシを用いて描く花は、写真に見まがう程リアルに描かれています。花びらや脈までもが緻密に描写され、肉眼で見ても気づかない様なディテールが見事に表現されています。実際の大きさよりはるかに拡大されかつ写実的なそれは純粋な驚きを私たちに与えてくれます。
ただ、永瀬の作品が写真と明らかに異なるのは「一瞬」を切り取っているわけではないということ。幾重にも重ねられた色彩の層が生み出す透明感あるつぼみからは、これから花開くという予感が、光をあびて咲き誇る花からはどこか儚ささえも感じとれます。「生きている」花の存在感があり、空へと伸びていこうとする、生物としての力強さを感じとることができます。
写真的な図像を保ちながら、純度と精度の高い状態での絵画的感覚を頼りに色々な工夫を画面に落とし込むことが私の制作の要です。そのようにして出来上がった作品は、発酵食品が元の食材には無かった豊かな栄養素を含むように、元の写真には無い新しい「質」を含んだ絵画になっていると考えています。
昨年、顔・風景・花の3シリーズによる展覧会で、柔らかくかつ芯のある独自の世界を表現して見せた永瀬。今展はその中でも長く描き続けているモチーフである花の作品のみの展示となります。写真的であれど、写真には写ることのない何か。永瀬武志というフィルターを通して初めて現れるそこにしかない花の美しさを、この機会に是非ご高覧ください。
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