来日を重ね、日本の歴史、文化に理解を深めたムニーズは、nca初個展となる本展にむけての調査において、江戸時代には八丁堀・京橋界隈に代表的な浮き世絵師が多く住んでいたことを知り、またその作品の表現の豊かさに感銘を受けました。本展では、現在進行中のシリーズ、"Pictures of Paper"から浮世絵をモチーフとした作品、また西洋画において彼の視点から日本の美意識を見出すことのできる作品を選出しました。
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ヴィック・ムニーズは「人類のすべての足跡、技術、言語はそれらが展開された環境へ投影されることでしか存在し得ない」という考えのもとに「ピクチャーオブピグメント」を制作した。(ピカソの名作の複製の上に様々な顔料をのせて、絵画を脱構築したもので、「これは素材を単純化することによってあらゆる素材の根源を暗喩」するという意図に基づいていた。)今回新作の「ピクチャーオブペイパー」はシステム的に色面、色層を重ねて作る日本の浮世絵版画から想を得て、広重の作品を流用している。
デジタルで原作のピクチャーを読み取り、これを出力して、手で切り抜いていく。そしてそれを層状に貼り付けて作った画面を写真に撮り、2m近くまで拡大するのである。「フォルムと色の明確さは、ピクチャーとして視覚的刺激に満ちており、それはピクチャー自身を目的として脱構築する」という作家の言葉は、浮世絵の作り方のシンプルさと含意の饒舌さに魅了され、これを紙を重ねるという行為によって制作の過程を辿りながら、表現の豊かさの真相を探究したいという意図が感じられる。
作品を追う私たちの眼は紙のわずかな厚みと層状になった、ちりめんのようなざらついた輪郭と表面のテクスチャーに惹き付けられる。それは写真に撮られることによって不思議な存在感を醸し出し、色彩はますます艶やかに押し出されている。
マティスやゴーガンが惹き付けられた明快なフォルムにして、複雑で豊かな「絵」を生み出す浮世絵、クロワゾニズムにも影響を与えた線の力。ともに展示されるホーマーによる波の絵の流用や、デューラーの繊細な植物画の流用は花花やその自然の流麗な線のリズムと色を淡々と楽しむ緩やかで晴れやかな視線の中でひとつのハーモニーを奏でる。
ピクチャーを見るということの知的で新鮮な方法をこの作品は楽しげな手つきで示してくれる。
-長谷川祐子(東京都現代美術館チーフキュレーター)
〒104-0032 東京都中央区八丁堀4-3-3
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