型抜きや反転といった手法で生み出される、鋭いユーモアをたたえた精巧なオブジェ。独自のコンセプト「御物補遺」に基づく岡崎和郎の作品世界が、鎌倉館の空間に補遺(サプリメント)の庭として展開します。
岡崎和郎(1930-)は、1960年代に独自の造形概念「御物補遺」(ぎょぶつほい)を確立し、今日まで、オブジェを中心に、鋭敏なユーモアを湛えた精巧な作品の制作を続けています。
美術の世界に欠落した要素を補うものとしての作品という「御物補遺」のコンセプトに基づいて、日常の事物を型抜きや反転といった手法で鮮やかに造形化した岡崎の作品は、「補遺」の英訳[Supplement]のとおり、見る者の知覚を活性化し、通常の美術観を一新させる「栄養補助品(サプリメント)」として作用します。
その造形性と一貫した創作姿勢に加え、自らの戦争体験に根差した日本や人間存在についての深い洞察が込められた一連の作品は、日本の戦後美術のなかで近年その重要性をますます高めています。
庇をモティーフに部分と全体の境界を省察する「HISASHI」のシリーズによって、補遺の概念はその空間性をより強めてきました。公立美術館での個展としては13年振りとなる本展では、坂倉準三のモダニズム建築として知られる鎌倉館に、新作を含む約45点が配されることで、建築と周辺の環境、そして作品の世界が補完しあい、いわば美術館全体が「補遺の庭」となることでしょう。
「休息・再生・記憶」をテーマに、補遺の庭に展開される岡崎和郎の仕事と、その造形思考を紹介します。
《招福猫児》2006年 撮影:山本糾
〒248-0005 神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-53
TEL:0467-22-5000