まずは、作品とじっくり対峙してみたい。
銀色の台の上に[肉]の衣をまとった女がいる。傍にいる無邪気な子供を見ていない。反対側の牛も見ていない彼女は美しく物憂げなその表情で何を考えているのか理解し難い。しかし、そのほっそりとした身体に纏う[霜降り肉]の衣は、どこまでも美しい。右手には、血を流して死に向かう牛。その血は流れ流れて、煙の中に消える。牛の皮膚と筋肉は、石膏と砂で加工したキャンバス地に筆を重ねた表面によって、とてもリアルな印象を与えている。画面左に位置を占める枝肉も同様な印象を与える。
しかし、画面は丁寧にタッチを重ねた精緻なもので一見リアルなのだが、よく見ると実はリアルでないことに気がつくだろう。それでも鑑賞者の眼は画面の美しさに魅了される。それは、リアルな彼の筆致が、"ハイパー"リアルというよりむしろ、かたちの理想化と空間への配置への執着を徹底させる という指向性を持った結果なのだ。絵画の中の造形や構図に絶えず気を配る笹田の態度は、非常に真摯でそして優しい。
「かたちをつくる」という芸術の基本を重視している点、また、制作に向きあう姿勢として"油画"としての形式美を追求する点、日本古美術からの引用 などから、笹田の創作は和洋の古典的な手法を踏襲している。しかし、この作品が、古典となっている日本"油画"に混ざって展示されていたら異質な気持ちを抱かせる。さりとて、昨今の映像的な感覚を持ったペインティングや表層を流れる"ライト"な現代美術の展覧会にあってもおそらく馴染むことはない。この「違和感」こそ、笹田作品の肝なのである。
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