崔が本展で展開するのは、"森"。「アショカ王の5本の樹の森」という故事に想を得て、立体、写真、映像作品などで構成する新作のインスタレーションです。アショカ王は、仏教を守護したことで知られる古代インドの皇帝ですが、彼は、国民ひとりひとりが、5本の樹を植え、それを"森"として見守ることを提唱したと言われています。5本の樹とは、薬効のある樹、果実のなる樹、燃料になる樹、家を建てる樹、そして花を咲かせる樹。
ここでの<樹>のイメージは時間を横切る存在であり、永遠に向かって手を差し延べながらも衆生に限りない安らぎを施す深淵から湧き立つような慈悲の存在でもある。
これは古代から今日に至るまで変わらない人間と樹との関係であり、もう一方ではその永遠たる長さにより、かえって世の中のすべてが時間の変化を通して変わっていく姿を見せてくれていることでもある。
ボルヘスは、「人間のあらゆる精神的な体験は時間の体験に還元される」と言っている。<樹>はまさにそのような精神的な媒介者なのである。
―作家によるコンセプトノートより―
森が内包する大いなる生命の流れと、樹と人間との悠久の交感に思いを巡らせながら、崔は館内に "森"を誕生させます。
崔在銀 タイトル未定 2010年 ビデオインスタレーション(参考図版)
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