幕末、土佐藩の海運業を任された岩崎彌太郎(1835~1885)は、明治維新後に三菱を興して事業を引き継ぎ、海運業のみならず、造船、銀行、保険、不動産と、現代まで続く様々な事業に着手、拡大させました。同時に岩崎家と三菱は、事業だけでなく、文化・芸術とも深い関わりを持ちます。しかしこのことは、岩崎家や三菱の社風もあり、これまで一般にはあまり知られてきませんでした。
岩崎家が興した文化・芸術に関わる施設としては、《曜変天目「稲葉天目」》(国宝)をはじめとする多くの美術品および古典籍等を所蔵する静嘉堂、《毛詩》(国宝)など、東洋学に関する貴重な書籍で知られる東洋文庫があります。しかし、岩崎家、三菱と文化・芸術との関わりはこの二つの施設のみではありません。
三菱一号館美術館開館記念展第二弾の展覧会である本展は、明治20年代、三菱による丸の内開発の最初期に存在した「丸の内美術館」計画の紹介から始まります。実現には至りませんでしたが、当時の三菱社では、英国人建築家ジョサイア・コンドル(1852~1920)に美術館図面の作成を依頼していました。図面によれば、展示室のほか、レクチャールーム、図書室、学芸員室、といった今日の美術館としての機能を十分に備えた計画となっています。丸の内に美術館を、との夢は19世紀末より一世紀以上を経て、このたび三菱一号館美術館として実現したともいえるのです。
ジョサイア・コンドル
《三菱一号館 立面(南面)》
明治20年代
三菱地所株式会社蔵
本展では、この「丸の内美術館」計画を紹介するほか、静嘉堂、東洋文庫所蔵の名品、さらには三菱系企業やゆかりの個人が所蔵するオーギュスト・ルノワール、クロード・モネ、山本芳翠、黒田清輝らの作品を併せ、120点余(会期中入れ替え含む)が展示室を飾ります。
岩崎家および三菱の文化・芸術における知られざる一側面を、珠玉のコレクションと共にお楽しみ下さい。
藤島武二
《日の出(海)》
1931(昭和6)年頃
三菱地所株式会社蔵
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