本展は、2000年以降に話題になった9作品に焦点を当て、戦後日本のストーリーマンガの達成をふまえながら成熟しているマンガ表現の現在を紹介するものです。従来のマンガの展覧会は原画展示が中心でしたが、本展ではマンガ家や編集者の意見を取り入れながら、それぞれの作品世界を空間の中で立体的に展開することを試みています。
マンガは、映画や文学といった他分野の表現を貪欲に取り入れながら、記号的表現を駆使し、子供向けの娯楽にとどまらない文化産業として成長を遂げてきました。そのテーマはスポーツ、SF、ギャンブル、恋愛、暴力、性など、多岐にわたり、1990年代に巨大文化産業としてのピークを迎えます。2000年以降、テーマや表現は読者層の多様化にあわせ一層の細分化が進み、一言で「マンガ」と言っても、もはやそこから連想されるマンガがひとつのイメージに収束されることはありません。
海獣の子供 2006- ©五十嵐大介/小学館・IKKI
マンガにおけるジェンダーや年代別の区分の曖昧化、「萌え」要素を柱としたキャラクター中心の作品の登場、主人公の個人的/内的な関心事がそのまま世界全体の存亡へ結びつく「セカイ系」とよばれる作品群の出現など、マンガ表現も変化を遂げていますが、マンガについて近年特筆すべきは、その受容の幅が拡大したことでしょう。二次創作(同人誌)市場の爆発的な成長、マンガを原作としたテレビドラマ、映画の増加、現代美術によるイメージの引用、海外輸出の加速などを受けて、日本学、社会学、美学美術史など、さまざまな学術分野で国際的に議論されるようになったほか、大学ではマンガ制作の実技や理論を指導する学科が設立されるなど、現在の日本を代表する文化として一般的に認知されるようになりました。
本展では上記のような時代を背景に、マンガ家は時代の空気をどのように表現しているのか、錯綜した時間や空間軸をどのように描いているのかなど、二次元のマンガ表現における多種多様な挑戦を三次元の空間に展開し、新しいマンガ体験の場の中でマンガの可能性や魅力を探ります。
センネン画報2004- ©今日マチ子
【参加作家、作品と展示について】 *作家名の五十音順
浅野いにお『ソラニン』(小学館、2005-2006)
作家が撮影した風景写真や『ソラニン』中の画像を用いた映像作品などによるインスタレーション。
安野モヨコ『シュガシュガルーン』(講談社、2003-2007)
立体コラージュ作品による空間インスタレーションと版画作品の展示。
五十嵐大介『海獣の子供』(小学館、2006-)
海中世界のインスタレーションと原画展示。
今日マチ子『センネン画報』(太田出版、2008-)
作品世界をイメージした空間に原画の展示。
くらもちふさこ『駅から5分』(集英社、2007-)
作中の錯綜した時間や空間軸を立体的に表した迷路的展示。
二ノ宮知子『のだめカンタービレ』(講談社、2001-)
下絵原画やカラーイラストを作中で登場するクラシック音楽が流れる空間で展示。
ハロルド作石『BECK』(講談社、1999-2008)
ライブハウスに見立てた空間の中で、マンガの演奏シーンだけによるBECKの無音ライブを上映。
松本大洋『ナンバーファイブ』(小学館、2000-2005)
巨大イラストによる空間と原画展示。
若木民喜『神のみぞ知るセカイ』(小学館、2008-)
マンガやキャラクターにおけるリアリティといった作品の背後にある作家の問題意識をインスタ
レーションで表現。
駅から5分 2007- ©くらもちふさこ/集英社・コーラス
【ガイドマンガについて】
本展や展示作品をより深く楽しく知るためのガイドマンガを、プロのマンガ家・谷田知彦さんが
描きおろします。マンガの世界に迷い込んだ3人の女子高校生キャラが、展示で紹介されている
各マンガ世界の特徴や見どころを紹介します。本作は会場内のハンドガイドとして貸し出すほか、ミュージアムショップでもお買い求めいただけます。
主催:
財団法人水戸市芸術振興財団、独立行政法人国際交流基金
助成:
財団法人アサヒビール芸術文化財団
協力:
アサヒビール株式会社、株式会社太田出版、株式会社かわまた楽器店、株式会社講談社、株式会社集英社、株式会社小学館、ヤマハ株式会社、ヤマハミュージックトレーディング株式会社
企画:
高橋瑞木(水戸芸術館現代美術センター学芸員)
空間構成:
豊嶋秀樹(ジーエム・プロジェクツ)
のだめカンタービレ 2001- ©二ノ宮知子/講談社
〒310-0063 茨城県水戸市五軒町1-6-8
TEL:029-227-8111