本展は、抽象表現とランドスケープの解釈について、独自のアプローチを試みている3人の若手日本人作家によるグループ展です。
岸本幸三は、1980生大阪まれ、成安造形大学造形学部を卒業し、「ワンダーシード」(2009)などで作品を発表してきたアーティストです。水彩画と見間違える繊細な質感の油絵で抽象的な風景画を描く岸本の作品は、観る者に山水画の持ついくつかの特徴を思い起こさせます。切立つ断崖、聳える山々、煙る霧、渓流などは、岸本の絵画に繰り返して登場するモチーフです。景観に宿る情景、景観を想う叙情を掴み取ろうとする岸本の姿勢は、記憶や思念、時間や歴史といった要素を断片的に切り取り、それを組み合わせるという現代的な抽象画の手法を導き出しました。
佃弘樹は、1978年香川県生まれ、武蔵野芸術大学映像学科を卒業し、既に当ギャラリーで2度の個展を経験しているアーティストです。画面の中に幾何学的な模様を記号的に取り組んでいくというスタイルで建築物や風景を描く事を得意とする佃の作品は、キュビスムの再構築という概念よりもむしろ人間の視覚が無意識のうちに陥るトリック(錯覚)やデザイン的な画面構成への関心から、シンプルな足し算と引き算のアイデアに基づいています。主観を表す事ではなく対象の主体性を引き出す事にそのベクトルが置かれる佃の作品は、その結果として描かれる画面が威厳や荘厳さを物語るように意図されています。今展では、9月 11日より群馬県立美術館で開催される建築家「白井晟一展」に出展される建築画のシリーズに関連する新作を発表予定です。
山路紘子は、1983年三重県生まれ、武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コースを修了したアーティストです。過去に「アートアワード東京」「群馬青年ビエンナーレ」(2008年)や、「所沢ビエンナーレ引込線」(2009年)などに出展し、高い評価を受けている若手アーティストです。山路の作品は、大胆且つ軽快な筆遣いと効果的に黒を使いこなす色感の良さに、まず高い感性を伺わせます。自身の美意識に強度な支点を持つ山路は、建築物の構造体やバッグ・クロージャーと呼ばれるプラスティック製のクリップといった普段私たちがあまり気に留めないような形態を頻繁に作品に取り入れています。そうした"お気に入り"のモチーフをランドスケープに組み込みながらリズミカルな画面を構築していく山路の作品は、日常と美の心地良い関係性を雄弁に語っています。
ここに見る3人のアーティストたちは、絵画の古典である風景画と20世紀美術を席巻した抽象画というアートのオーソドックスに、大いなるチャレンジを試みている若き情熱です。グローバル化する世界の中で、その未来を牽引するイマジネーションとして、アートに求められている役割はかつてない程に大きくなっています。それと同時に、これまで重要視されてこなかった世界各地の文化圏から次々と新しいビジョンが提示されています。今後、日本という文化圏の中から、どのような新しい価値が生まれ得るのか。本展が、彼ら若き才能の未来の一端を担う機会になれば幸いです。
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