藤野真由子(1979年生まれ)は自ら作った物語を切り絵で表現しています。藤野にとって物語は、人に起きるさまざまな振動、たとえば理不尽な苦しさや、消すことができない悲しみ、一人で
抱えるには大きすぎる喜びなどを受け入れ、それから手放して、先へ進むことを助けてくれる実用的な道具です。切り抜いた画用紙の裏に、雑誌や広告のカラーページをコラージュしていく独自の手法は、日々の生活に起こったことや感じたことを切り抜いて継ぎはぎしていく作業のようです。紙の上に貼付けられた心の断片を積み重ねることで、新たな物に作り替えていく作業は日々を消化し、先へ進むための手段でもあります。
今展の「アリクイ・アブダクション」は『境界線を侵害すること/されること 境界線を超えることを許す/許されること』がテーマです。有機的なフォルムとレトロ・サイファイ・ポップなテイストで切り描かれた作品は、ユーモア溢れる不思議な世界へ私達を誘います。
あらすじは、高度な知能を得て二足歩行となったアリクイが、謎の生物「アリ人間」を捕獲するために惑星プラトニックへ探索を進めるというものです。アリ人間を捕まえて、その生命の不思議を解明し、我が物としようと画策するアリクイは、荒涼とした古代都市プラトニックに襲いかかったカタストロフと再生を目の当たりにして、侵略か共生の選択を迫られるというものです。
それぞれの境界線が交差する度に新しいストーリーが展開します。他者との境界線が複雑な形で絡み合う今の人間社会をちょっと間抜けに、可愛らしく描いています。小さなものの積み重ねで大きな世界を見せる、藤野真由子の「アリクイ・アブダクション」を是非ご高覧下さい。
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