この度キドプレスでは、塩川彩生による『日の中の月の光』展を開催いたします。前回の『鏡の中の影』続き二度目の個展となります。
塩川彩生は1978年神奈川県に生まれ、2006年に東京芸術大学修士課程を修了後した後は、東京を中心に作家活動を続けています。
木版・ドローイング・ペインティングで主に作品を発表し、プリミティブな木版の手法を用いて、そこから自由に派生していく表現方法を目指しています。
本来は同一のものである月が、平行する時間と空間の中で違う様相を見せる不可思議さに作家は面白みを感じ、着目しています。
一方では、昼と夜、光と闇のように、相反関係にありながら、時間や空間という概念が加わることで一つに結びつけられている、そういった不思議な構造を持つさまざまな事象を、塩川は自然の中に感じ作品として形にし、表現しています。
本展覧会では、和紙に水彩や木版などを織り混ぜたミクストメディアによって制作された作品を展示する予定です。
是非、この機会にご高覧下さい。
Nut in the night / 650 × 530 mm
アートライター住吉智恵さんにより、『日の中の月の光』展によせてコメントをいただきました。
気配の巣ごもり
あるところに、影を集めて巣作りをする小鳥がいました。
動物、植物、鉱物、空の星とそれにまつわる神話。
森羅万象あらゆるものの影が、この世とあの世を行ったり来たり、
背中あわせに存在する、その気配を集めてつくった巣は、
なにかの謎めいた "しるし" のようでもあり、
太古の過去と遠い未来を映す、鏡の部屋のようでもありました。
巣のなかにすわった鳥は、世界と自分の境目が消えてゆく白昼夢に
いつまでもまどろんでおりました。
塩川彩生が1つ1つ拵えた木版は、たしかな感触と温もりをもって手のなかにある。
ところが版を紙に写したとたん、そのイメージは影のように透明になる。
ものの実体とその気配は一心同体だが、実体を離れて浮遊するとき、イメージははるかに自由だ。
それは天空に存在する星々が、何億光年もの歴史と位置づけを超えて、
人の意識のなかで形づくる星座のイメージに似ているかもしれない。
生者の世界と死者の世界、過去と未来が遍在するパラレルワールドは、
イメージを自由に羽ばたかせる者の意識のなかにある。
そこには喜劇も悲劇も、鋭さも鈍さも、希薄さも強靭さも、矛盾なく共存する。
どこまでもこころよく、そして、どことなく身の置きどころのない作品世界である。
住吉智恵
Rose and rose quartz / 650 × 530 mm
すべて和紙に水彩、木版、コラージュ、 2010年制作
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