互いを知らない6人の女性たちは泉の呼びかけのもと、集まることとなりました。それぞれ泉の知人である彼女たちの共通点、それは「本が好き」であるということです。そこで、彼女たちは「本姉妹」と名付けられました。お茶会で繰り広げられるのは、譜面の上で踊る音符のように弾む会話、ゆったりと流れる姉妹たちだけの時間...泉はそのひとつひとつを、まるで厚い本をそっと、めくるように丁寧に記録していきました。
この度は泉イネの個展、小山登美夫ギャラリーにて「未完本姉妹 影の春光」展を、MA2Galleryにて「未完本姉妹 影の冬光」展を同時開催致します。「紺泉」から「泉イネ」へ...-泉が今回手がけた油彩画や「未完本姉妹」といったシリーズは、次々と新たな展開を見せています。本展では「本姉妹」の映像や写真、姉妹の持ち物をモチーフにした絵画、「本姉妹」の集いを飾った空間をインスタレーション致します。一見、それらは取り留めのないようにも見え、日常の断片を提示しただけのようにも見えるかもしれません。しかしながら「本姉妹」という架空の物語を作り、切り取っていく作業は、ちょうど泉にとって、吸っては吐いてを繰り返す、呼吸のように当たり前のことであり、「生きている」ことそのものの証なのです。例えば、フィクションであったはずの「本姉妹」の物語は次第にリアリティーを増し、当初からの「本が好き」ということとは別の側面が垣間見えるとも泉は言います。もうひとつの「本姉妹」の物語が今、はじまろうとしているのかもしれません。
まさに泉にとって作品とは、完成させることに目的を置くのではなく、過去と今を、現実と虚構を、生と死を、連なりとなって幾度となく往来するための作業なのです。泉の作品はその狭間の媒介者として、私たちの目の前に姿を表しています。今回の新作である、大胆な筆致と淡い色使いで描かれた「A scenery like a corsage or a demon/コサージュもしくは鬼のような風景」は、夜景と、人が立つ海辺の写真の組み合わせで描かれています。そのぼんやりとしたイメージは、ちょうど残像のように私たちの記憶へと深く染み渡ります。そして、観ている私たちの耳元でそっと囁くかのように、作品から軽やかな息づかいを感じるとることができるのです。
是非両展ともに足をお運び頂き、泉の織りなすいくつもの物語をどうぞゆっくりとご堪能ください。
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