自身の初個展となる「破片の森」では、架空の森を想定した作品群によって展覧会を構成しましたが、今回は架空の庭をイメージの典拠としています。この架空の設定は、和田にとってはむしろ制作の規制として働くものであると同時に、作品それぞれを関連付けていくためのガイドラインでもあります。和田の作品のモチーフとなる景色そのものは、おそらくは作家の身辺にあるごくありふれたものでありながら、作品となった画面から感じられるのは、時間が止まってしまったように静かな、しかし強烈な違和感であり、そのやや厭世的とも言える透徹な世界観はいずれにも共通しています。技法的な面から見ても、ボールペンや細軸ペンを用いてひたすらに線を重ね、色彩もありのままでは決してなく、構図もパースも通常ではない、全体が何処か妙な気配を伴っています。庭や森といった架空の舞台を設けることで、日常に散見するありふれたイメージをあれもこれもと拾い上げる感性を一旦抑止し、自身を無数の線の中に没頭させ、世界観を一つにまとめ上げていきます。自身の思い入れや愛着といった私的な要素を作品に込めるのではなく、極力それとは切り離した状態に作品をおくことで、より他人の記憶に残るものとなり得るのではないか、と和田は考えています。今回新たに制作された600点もの連作からなるドローイングインスタレーションも、一点一点にまつわる日常性や和田自身の主観をこのまさに膨大と言える点数や展示方法によって極力打ち消そうとしています。作品がニュートラルであればある程、それだけ受け手には入り込む余地が見つけやすくなります。和田の作品から受ける、決して押し迫るような強さではなく、するりと心に滑り込んでくるような印象は、そうした部分に拠るのでしょう。「庭は人が編集をした空間 そして完全には操作、制御しきれない」和田が今展覧会に寄せて述べたこの言葉はそのまま作品と和田自身の関係に置き換えられるようで、見る者に少なからず示唆を与えています。
今回の展覧会では、簡素、明快な描写で花や風景といったモチーフを600点のパネルに描きドローイングインスタレーションとして見せるメインピースのほか、花びらが無数に増幅していくような鮮烈な印象のドローイングなど、大小織り交ぜて構成致します。淡々と壁面を飾るその内側で、作品それぞれが連関する輪のように空間を取り巻いて、画面上の無数の線描同様にざわめく一つの庭の情景を形なすのでしょう。
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