古西紀子の代表作品は、独特のランドスケープ(風景)写真です。2004年から彼女は南カリフォルニア等での撮影旅行を始めました。日本の新興住宅地に育った古西にとって、その圧倒的な空間と空虚さは、彼女を戸惑わせるとともに惹き付け、一連の作品を制作させることになります。
このシリーズで古西は、大判4 x 5 カメラで撮影し、ネガをスキャンしてコンピュータに取り込み、複数のショットからひとつのイメージを構築していきました。例えばUntitled (Dirt Track)(2005)では、何度かに分けて撮影された4 - 6つのショットが使われています。描かれた轍の曲線はあたかも自然に見えますが、よく見ると写り込んだハイウェイや車などによって、スケールや向きが不自然であることに気付きます。特定の場所を素材としながらも、古西の作品のなかでは時間と場所が混ざり合い、ある種の不思議な普遍性が生まれてくるように思えます。
風景写真というと私たちは、特定の場所の瞬間の美しさや壮大さを記録するものと考えます。古西はこの風景写真がもつ長い系譜を批判的に、また同時に新たな技術をとりいれながら創造的に継承しているといえるでしょう。それはまた、より長い歴史をもつ写真表現における新たな可能性の追求でもあるのです。
本展では、一見して何層にもイメージが重なっているとわかる多重露出、ネガ部とポジ部がひとつの作品で共存など、上記で紹介したランドスケープのシリーズとはまた異なった手法で制作した新作約11点を展示いたします。常に新しい表現に挑戦する古西の作品を是非ご高覧下さい。
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