ひんやりとした床、光を受ける窓、佇んでいるかのような椅子。
福田真規が一貫して描くのは、静寂に占められた空間である。そしてその静けさの中でのみ掬い取る事のできる僅かな人の気配が、そのキャンバスには塗り込められている。
「静かな部屋にいると、窓の外から微かで、様々な音が聞こえてきます。静かでなければ風の音や遠くの人の声、窓から滲み出てくる外の音などの気配を感じとることはできません。
また、静かな部屋で感じとれるのは外の世界だけではありません。何もない、引越しの直後の様ながらんとした部屋や、そこにぽつんと置かれた椅子からは、かつてそこに居たであろう人の気配や、その話し声が残り香の様に部屋に漂っているのです」
何気ない居住空間がそっとその身を翻し表情を変える瞬間、時が止まったかのような空間に、人知れず織り成されていた物語は現れる。
彼女は捉えたその一瞬の物語を、自身の作品世界に閉じ込める。
「現実をそのまま写すのではなく、描きたいのは現実にある一瞬から感じとれる世界です。そして、その心を掴まれる一瞬一瞬は、光を放ちながら私の思い描く世界に集約されるのです」
長らく外気に触れていない、凝縮された世界。
息をする事すら憚られるような静けさと重みを持って、彼女の作品はそこに存在する。
「閉じられた窓」 2009 油彩、キャンバス 116.8×91cm
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