80年代から一貫して、名画の登場人物や映画女優などに自らが「なる」変身型セルフポートレイトの写真作品を手がけてきた美術家・森村泰昌。本展では、森村が「20世紀の男たち」に扮する新作シリーズ<なにものかへのレクイエム>を完全版でご紹介します。
20世紀は男たちが建設し、争い、破壊してきた歴史であるにもかかわらず、21世紀の現代では急速に「男性的なるもの」の価値が忘れ去られようとしています。森村泰昌はかつて<女優>シリーズで、映画という「フィクション」のなかで輝きを放つ20世紀の女たちの世界を表現しました。<なにものかへのレクイエム>シリーズでは、森村は「男性的なるもの」の輝きを求めて、政治や戦争、革命という「現実」の世界、20世紀を記録したシリアスな報道写真の世界に取組んでいます。<美術史の娘><女優>シリーズと過去に発表した作品のなかで、女性に「変身」するイメージが強かった森村泰昌。「男たち」になることは、自らの身体を媒介にして性を自由に超越し、「私」の可能性を追求するセルフポートレイトの新たな挑戦でもあります。
なにものかへのレクイエム(記憶のパレード/1945年アメリカ)2010年
『現在私たちは21世紀を生きています。しかしこの21世紀は、かつて人々が想像していたような夢の世紀ではないようです。にもかかわらず、人類はこの21世紀をまっしぐらに突っ走っているかに思えます。前の世紀である20世紀をブルドーザーで更地にして、20世紀的記憶を忘れ、その上にどんどん21世紀が出来上がってきつつあるように思います。私はここでいったん歩みを止めて、「これでいいのかしら」と20世紀を振り返りたいと思いました。過去を否定し未来を作るのではなく、現在は過去をどう受け継ぎ、それを未来にどう受け渡すかという「つながり」として歴史をとらえたい。そしてこの関心事を私は「レクイエム=鎮魂」と呼んでみたいと思いました。』(森村泰昌)
鎮魂歌(レクイエム)。それは、森村泰昌というひとりの美術家が自らの身体という器に歴史の記憶を移し替えるセルフポートレイトの表現によって、過ぎ去った人物や時代、思想への敬意をこめて、失われていく男たちの姿を21世紀に伝えようとする行為なのです。20世紀とはどういう時代だったのか?歴史の記憶に挑む森村泰昌の新たなセルフポートレイト表現の集大成をお楽しみください。
映像作品《海の幸/戦場の頂上の旗》 2010年
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