島崎蓊助は1908年に文豪・島崎藤村の三男として生まれました。しかし母の死を契機に2歳で藤村のもとを離れ、長野県・木曽福島の親戚の手で育てられます。13歳で藤村のもとに戻り、兄の鶏二と共に川端画学校に通いますが、二人は対照的な道を歩むことになります。兄鶏二はフランスへ留学、その後画檀にて早くより人気作家となり華々しい活躍をしますが、弟の蓊助は戦前には前衛芸術革命のプロレタリア美術運動に傾倒、その後ドイツに渡り千田是也らとバウハウス周辺の芸術運動に没頭します。戦時中は中国の戦場を描き、戦後は藤村全集の編纂と、その画業が公に評価されるのは全集の編纂に区切りが付く1970年を待つことになります。
藤村全集の編纂を終えた蓊助は1970年にドイツを再訪し、セピア色の作品を約30点描き上げました。自らの画業の集大成と言えるこのセピアでの表現は、1947年から書き初め、生涯で実に164冊を数えた『ノオト』におけるあくなき芸術研究の到達点といえます。
蓊助はこのセピアを「孤独の色」と呼びました。家族、社会、芸術と逃げることのできない大きなものに対して常に真剣に挑み続けた作家が、自らの表現を託すためにたどり着いた色です。セピア色の「光と闇」のみで描かれた画面には、蓊助の芸術論、自画像と呼ぶべき精神と軌跡が集約され、厳しさの中にある優しさ、闇の中にある希望をみることが出来ます。
本展では、1970年にドイツにて制作されたセピア作品約30点のうち、油彩とドローイング約10点を紹介します。ぜひご高覧下さいませ。
〒104-0061 東京都中央区銀座6-7-16 (並木通り) 第一岩月ビル3F
TEL:03-3574-0545
http://www.hirogallery.com