国立西洋美術館設立の礎となった松方コレクション。1910年代後半から20年代にかけてヨーロッパで蒐集されたこの大コレクションには、その散逸の謎とともに数々のエピソードが残されています。コレクションを築いたのは川崎造船所(現・川崎重工業)の初代社長、松方幸次郎。商用でロンドンにいた松方に蒐集のきっかけを与え、また指南役となったのが画家フランク・ブラングィン(1867-1956)でした。ブラングィンが描いた造船所や労働者をテーマとした力強い絵画に魅せられた松方は、その主要作品を次々と購入し、ついには究極の夢である、コレクションを公開するための美術館、「共楽美術館」の建築デザインをブラングィンに依頼します。関東大震災後の経済危機により美術館建設計画は実現することはありませんでしたが、実現すれば東洋一の西洋美術のための美術館が誕生し、そこではブラングィンの作品が総合的に展覧されるはずでした。
フランク・ブラングィン / 《英国軍艦ブリタニア号の最期》 / 1917年 / エッチング、紙 / 東京国立博物館 / ©David Brangwyn
ブラングィンはイギリスのロイヤル・アカデミーで現存作家として初めての個展を開き、ロイヤル・エクスチェンジ(証券取引所)など公共建築の壁画を次々と手がけ、イギリスのみならずアメリカ(ニューヨーク、ロックフェラー・センターなど)やカナダにも作品を残しています。アーツ・アンド・クラフツ運動からアール・ヌーヴォー、アール・デコという同時代の装飾芸術運動を背景に、油彩画だけではなくカーペット、家具、陶磁器、版画や挿画本にも制作範囲を広げ、当時を代表する画家として活躍しました。夏目漱石の名作『それから』にもブラングィンの名が登場しており、その名声は日本にまで届いていたのです。
《海賊バカニーア》 / 1892年 / 油彩,カンヴァス / ブライアン・クラーク, ロンドン / ©David Brangwyn
本展は、国立西洋美術館開館50 周年を記念し、松方との関わりを軸に、ブラングィン芸術を回顧する日本では初めての展覧会で、8カ国約37カ所の美術館、コレクターが所蔵する約120点で構成されます。松方のための共楽美術館のデザイン画のほか、散逸してしまった松方旧蔵のブラングィンの作品も探し出し、またロンドンの倉庫で焼失した大作のための下絵を紹介するなど、松方によるブラングィン・コレクションを可能な限り再現します。色彩あふれる画面構成、力強い描写力とともに、家具、陶磁器など、多分野に見せる豊かな才にご期待ください。
フランク・ブラングィンの肖像 / 1940年 / 写真 / 個人蔵 / Photo: LISSFINEART.COM / ©David Brangwyn
公式ホームページ:http://www.fb2010.jp
〒110-0007 東京都台東区上野公園7番7号