セシル・バルモンドは、エンジニアリングの枠を越えて建築家と創造的な協働を行う構造デザイナーです。構造家と聞くと建築家が設計した建築を、力学や施工技術をふまえて物理的に成り立たせ、建築に丈夫な骨組みを与える技術者という、縁の下の力持ちとしての存在がイメージされるでしょう。
しかし、バルモンドの仕事はそこにとどまりません。「丘の上に空飛ぶ絨毯のように家を飛ばしたい」「運動がみなぎる四角の箱をつくりたい」― 建築家から寄せられる様々なリクエストに独自のアプローチで挑み、世界中の建築家から期待と信頼が寄せられています。
ポンピドゥ・センター、メス
2004-
協働:坂茂+ジャン・ドゥ・ガスティーヌ+フィリップ・グムチジャン
スリランカに生まれ育ち、アフリカ、ヨーロッパで科学、数学、建築を学んだバルモンドは、イギリスの構造設計会社アラップに加わり、以来レム・コールハース、伊東豊雄、アルヴァロ・シザを始め名だたる建築家と組んでさまざまなプロジェクトを手掛けてきました。東京オペラシティアートギャラリーで2006年に開催した展覧会「伊東豊雄 建築|新しいリアル」の中ではプロジェクトのひとつ「サーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオン 2002」をご紹介しました。正方形を入れ子状に回転させたパターンで構成されたこのパヴィリオンは、建築構造そのものが建築の形であり、デザインでもあるのでした。
バルモンドが生み出す新しい幾何学は、建築を従来の四角、三角、円を基本とした静的で閉じたものから、複雑さをはらんだ動的で有機的なものへと飛躍させ、現代建築の可能性を大きく開きました。最新のコンピュータ技術と施工技術を駆使しながらも、バルモンドの思考の原点は私たちにも身近なものの中にあります。太陽を求めて回転しながら成長する植物、枝分かれする葉脈、燃えさかる炎のゆらめき、刻々と変化する陽の光。自然の特性に注目し、その豊かで美しい秩序を構造デザインに採りいれるバルモンドは、建築に脈動、鼓動を与えて命を吹き込みます。
サーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオン2006、ロンドン
2006
協働:レム・コールハース
photo:Christian Richters
バルモンドがデザインする構造はその建築を訪れる人びとの奥底に眠る原始的な本能を呼び覚まし、感覚と知性を刺激します。自然の形を単に模倣するのではなく、その根源にあるものを抽出して広がりを持った幾何学へと展開するバルモンド。展示室をいっぱいに使ったインスタレーションによって、バルモンドがひらく建築の新しい世界を体験して頂きます。
Danzer(ダンザー)
2009
photo:Alex Fradkin
〒163-1403 東京都新宿区西新宿3-20-2
TEL:03-5353-0756