本物と見紛うばかりの彫刻を制作する前原冬樹。彫る対象に合った木を選び、卓越した技術で思う通りの形に彫り上げていく。1年ぶりの個展となる今展では、「一刻(排気口と煙草)」(仮題)、「一刻(ワニ皮のベルト)」(仮題)を含む新作3点を発表予定。
誰かが時間をつぶしていたのか、きっちり一本、最後まで吸って、踏みつぶして消したタバコの吸い殻。排気口近くの道端にポイッと捨てられている。
人が立ち去って、どれだけの時間が経ったものなのか、風もなくそこに留まっている風景。
前原は人がいた痕跡と、放置され置き去りにされた風景を木彫によって表現している。
時間の経過が感じられる作品というのは、もちろん観る側がそう判断する訳だが、作品にその力がなければ見せかけだけであり、観る者は何も感じない。
また、こういった作品(風景)もある、
古いワニ皮のベルトが吊るされている。
ベルトは途中で切れ断片がのぞいている。
普段我々が実用品として認識しているベルトが、切断されていることにより非実用品として目の前に存在している。
一体何があったのか、作者の意図は?もしもベルトが完成形のままであったならば「ベルト」として認識できた安心感によって想像力は生まれない。
前原の作品には、いつもどこかで誰かの記憶に引っかかる。ひっそりと佇んでいる作品の前で黙考し、対話してみると、どこかで出会ったことのある風景に思えてくる。前原は、朽ちていくものの中に美しさを見いだし、同時に人間の生命(前原自身)を反映してみているのだろう。実際には体験したことのない記憶でも、心に住み着く想いがノスタルジーを呼び起こすのかもしれない。
「理屈抜きでどうしようもなく惹かれる風景がある」
形だけでなく余韻や間をも表現したい。作品が発信するもの、作品の実力、前原は作品が持つ力を信じて自らどこまでやれるか日々挑戦している。
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