長澤英俊はイタリアを拠点に活躍する世界的な彫刻家です。1940 年に旧満州(現中国東北部)で生まれた長澤は、母の故郷の埼玉県川島町で育ち、県立川越高校、多摩美術大学に学びました。在学中から旅を繰り返していた長澤は、その後、1966 年に日本を発って東南アジア、中近東を自転車で横断。1 年後に到着したミラノにそのまま住みつき、同時代のイタリアの芸術家と交流しながら本格的な活動を始めます。
長澤は最初期にはオブジェによるコンセプト重視の作品を制作していましたが、1970 年代に入ると大理石やブロンズといった素材を用いて彫刻的な表現へと向かいます。彫刻の原点を問い直すような制作を通して、次第に長澤の独創的な手法が生み出され、豊穣なイメージと壮大な構想を感じさせる作品へと結実していきます。それらの作品はヨーロッパで高く評価されるようになり、ヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタなどの主要な国際展でもたびたび紹介されてきました。また、近年では重力や力学の原理を応用しながら、独特な構造で成り立つ作品も手掛けています。
《詩人の家》 1999年 鉄、鋼鉄、真鍮、紙
撮影:松本和幸
長澤の作品では、形とイメージ、時間と空間、眼に見えるものと見えないものの関係が独自の視点から深く考察され、それらがある時は詩的に、ある時は明快にあらわされています。その鋭敏な洞察力と豊かな感受性によって生まれる芸術は、深遠で根源的な世界、作者の語る「イデア」の世界を私たちに鮮やかにもたらしてくれるに違いありません。
この展覧会は、1993 年に開催されて以来の日本国内における待望の回顧展となります。会場の展示空間を生かして作家自身が練ったプランをもとに、1970 年代以降の代表作を振り返りながら、近年の大作を中心とした約19 点を紹介します。長澤英俊の芸術の魅力を堪能し、その神髄に触れることのできる、またとない機会となるでしょう。
《舟》 1980-81 年 大理石、土、樹木
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