「天然記念物的な、堂端徹の作品。」
いまさらいうまでもないことだが、おもしろい美術家がつくるものはやっぱりおもしろい。
気持ち悪い作品をつくる人はやっぱりなんか抱えているし、無邪気な人は衒いのない作品をつくる。
堂端徹は、一昨年、東京芸大大学院の先端芸術表現専攻を出て、現在は都内の中学校で用務員の仕事をしながら制作活動を続けている。
その作品にはアウトサイダーアートのような絵柄も散見されるが、彼はあくまで崇高な芸術を志す人である。
借り物の美的アイコンを並べることから始めなかったので、子供じみた絵が繰り返し描かれるが、いわゆる自動筆記に身をゆだねて生まれる描画や量産が信条のアウトサイダーアートとは別種のものである。なにより、寡作である。
彼にとって制作とは、熟考をともなう作業である。そのとてつもなく自由な発想が形になったものを前にして、つい「思いつき」とこちらが口にすると、彼は遠慮がちに、怪訝な表情をみせる。
たとえば、今回、特別にお借りした渡辺英司さん所蔵の「よりみち」は、カテランにも似た遊び心に生真面目さの加わった味わい深い作品だ。それは吃音をテーマにしたものだが、手書き文字の「ぼ」「ぼ」「ぼ」「ぼ」「ぼくは」、その間にあらわれる図像、仕組み、造作など実によく練られているのだ。
今回は、東海地方では何度か展示されている「かおたんす」も蔵出しして、本のシリーズ「へ」の新作、ドローイングとあわせて展示する。昨今の病理に近づきすぎた美術にちょっと食傷気味の愛好家の皆様に、ぜひ、このすがすがしさを知ってほしい。
「へ」
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