福井篤の絵画作品には、常にある種の静けさをたたえた、理想郷的な世界が広がっています。それはある時は抽象的な矩形として、またある時は非常に具体的な物語を紡ぐモチーフとして描かれますが、私たちが一貫して意識せざるを得ないのは、作家自身の視点はどこにあるのかということ―言い換えれば、福井篤という作家と、この世界との距離感です。
彼の描くイメージは暗示に富み、私たちはそれが何であるかをすぐに感知します。森に横たわる少女、キノコのシルエット、部屋の中のもう一つの入り口、というように。けれどそこに何かの意味を見出そうとすれば、私たちはそれ以上作品の中へ踏み入ることはできません。日常的な風景の中に異空間が開けていく初期の作品から、不思議な森を舞台にした物語の断片的スティル写真のようなシリーズ、さらにSF的な世界観を展開し、太古の昔に地球へ上陸した異界からの使者が、懐かしむように原風景を浮かび上がらせる前回の個展のシリーズまで、様々な要素の作品が互いに響き合い、ひとつの壮大な思考の宇宙を繰り広げます。
彼が描く絵画世界には、永久に現実社会へ到達し得ない言いようのない孤独と、同時にそこから逃げることなく透徹した視線で世界を広く見渡している、時空を超越した自由が、清々しく宿っています。
新作ペインティングでは、作家が昔描いた風景と同じ場所が再び登場します。それはちょうど、夢の中で何度も同じ風景に出会う体験のようです。そのほか、コマ割されたいわゆるバンドデシネのような、不思議な物語のドローイングも展示される予定です。どうぞご高覧ください。
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