人間は五感の中でもとくに視覚を重視し、目に映るものをそのまま真実として捉えがちです。しかし、見つめている対象は本当に見たとおりの実体をもっているでしょうか?見誤り、見落とし、思い込みによる錯覚などは日常茶飯事です。視覚はいともたやすくわたしたちを欺き、混乱に陥れます。
森村泰昌 <ボデゴン(鼻つき洋梨)> 1992年 高松市美術館蔵 ミクストメディア
このような視覚の構造に目をつけた画家たちは古今東西、さまざまな「だまし絵」を手掛け、見る者を欺き、楽しませてきました。さらに、そうした視覚へ挑戦する姿勢は現代作家にも引き継がれ、1960年代の錯視効果を取り入れたオプ・アートや光を用いたライト・アート、70年代の写真表現を利用したスーパー・リアリズム、90年代の古典絵画を引用したパロディー作品などにも、見る者の視線を意識した多彩でユニークな仕掛けが認められます。
佐藤正明
高松市美術館のコレクションを中心とする本展は、視覚と固定化されたイメージに揺さぶりをかける戦後美術を「トリック・アート」としてご紹介し、〈虚と実をめぐって〉、〈オプ・アートとライト・アート〉、〈スーパー・リアリズム〉、〈古典絵画をめぐって〉という4つのキーワードをもとに構成しています。26人の作家が仕掛けるさまざまなトリックを通して、「見る」ということの不思議と「騙される楽しさ」をあらためて体感し、お楽しみいただければ幸いです。
高松次郎 <影 NO.371> 1977年 高松市美術館蔵 ラッカー・パネル
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