タカ・イシイギャラリーは、ロサンゼルスを拠点に活動するマリオ・ガルシア・トレスの国内2回目となる個展を開催いたします。タカ・イシイギャラリーでの初個展となる今回、ガルシア・トレスはフィルム作品 「Unspoken Dailies」 を発表いたします。
「Unspoken Dailies」は、数年前に作家自身がまとめたカンファレンス・エッセイ(特定のテーマについて話あう会議に参加するにあたり、自説をまとめた小論)を基に脚本化し、最終的にフィルム化された作品です。同作品は、時間、沈黙、語られない言葉、忘れられた事柄についての習作です。
リアルタイム(編集による手を加えずに)で66分間にわたり撮影された本作は、メキシコ人俳優ディエゴ・ルナ〔主な出演作品:「Milk」(2008年)、「Mister Lonely」(2006年)、「Y tu mama tambien」(2001年)〕が、カメラが回る前で初めて目を通す脚本を読む、という作品です。彼の口からは何も語られませんが、「Unspoken Dailies」の劇中からは、多くのことが明らかとなります。映像が進むにつれ、本作品は俳優のテストショット、撮影場所となったメキシコシティの音声による描写、そして現実の時間と劇中の時間についての考察となるのです。
歴史やコンセプチュアル・アートの過去の試みを再検討するための手段として、ガルシア・トレスは写真、フィルム、パフォーマンス、「printed intervention」(印刷物などにテキストを書き加えて意味を付加する表現方法)にとどまらず、多種多様なメディアの可能性を追求しています。一見したところ客観的な表現方法をとっているように見える、コンセプチュアル・アートの情報としての美しさを逆手にとり、ガルシア・トレスは記憶や理解の間の相違を明確化し、さらにはそれを利用することにより、現在我々が直面する課題ついての懸念を表明しているのです。
他の作品同様、「Unspoken Dailies」は過去の先達によるアート作品をその起点としています。会議の脚本化は、コンセプチュアル・アートにおける暗示の有用性・可能性を強く示唆しており、その傾向はBas Jan Ader の作品中に顕著に見て取れます。会議は物語へ転換するに留まらず、撮影の課程を通してそのアイデアそのものが再構成されるのです。
「Il aurait bien pu le promettre aussi (He might as well have promised it)」(ジュウ・ドゥ・ポゥム、パリ、2009年)は、東京滞在中に作家が撮影した写真と、字幕作成スタジオにて同じく作家が撮影した写真を交互に投影するスライド・ショー作品です。作家は、外国映画を翻訳することによって生じる言葉の差異など、イメージの影に潜む物語を浮かび上がらせます。
Mario Garcia Torres
"Unspoken Dailies", 2003-2009
16mm black and white film, 66 min.
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TEL: 03-5646-6050