田口はここ数年、制作する空間や呼ばれた展覧会場に「もともとあるもの」を少しずつ動かしながら空間を作り上げる「パフォーマティブ・インスタレーション」と、ものを少し動かしては写真を撮影し、数千枚にも及ぶ画像をつなぎあわせて作った「ストップモーション・アニメーション」のふたつの手法で作品を制作・発表しています。たとえば、2007年にベルリンで行った「moment」は、ギャラリーに敷き詰められていた板を、毎日少しずつ動かして、毎日ちがう空間を作り上げ、展覧会会期中にそこはパーティー会場になったりバトミントンを楽しむ屋内競技場にかわっていきました。彼の手によって空間(と床板)は日々新しい顔を見せ、観客は二度と同じ風景をみることはなく、変化しつづける「もの」と「空間」の関係性や軌跡は、その後「ストップモーション・アニメーション」作品になることで全貌をつかむことができる、というものでした。
またその連作である2008年に行った「Moment-performatives spazieren」では、ギャラリーの床板がまるで生き物のようにベルリンの街を徘徊したり、街を構成する建築物のように変化し続けていくさまを映像にし、昨年文化庁メディア芸術祭アート部門において優秀賞を受賞しました。
今回無人島で初お披露目となる田口の個展は、田口がベルリンへ在住(2005年)し始めてからライフワークとして描きためたドローイングの一部を会場に貼りめぐらせてつくりあげます。また、ベルリンにいる田口からほぼ毎日FAXで送られてくるドーイングや次回作のプラン、写真なども毎日展示していきます。今回もドローイングを一枚展示するたびにカメラで撮影し、会期後にはその経過をアニメーションにする予定です。常にそこに居る人を巻き込み、場所性を大切にする田口が、今回は遠く離れたドイツからFAXというメディアを使って、時間や距離を越え、田口のいるベルリンと無人島のある東京・高円寺との関係性を築き上げます。
またこの個展と同時期に田口は東京や香港のグループ展にも参加します。これからの活躍が大注目の、田口行弘の新作展をぜひこの機会にご覧いただきたく、どうぞよろしくお願いいたします。
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