日本近代化の歴史のなかで、明治末期から昭和初期は主観や個性を尊重する意識が初めて大きく高まった時代です。特に芸術においては、主観や自己の内面を作品に表そうとする若き芸術家たちが様々なジャンルから出現しました。彼らは、既存の価値に捕らわれることなく自由に表現する喜びを謳歌しながら、あるいは何をどのように表現すべきかという、それまでなかった根源的な問題に苦悩しながらも、かつてないほど個性豊かな作品を生み出しました。
本展では、絵画、版画、彫刻、工芸、建築、写真、舞台芸術などから、約140作家の400点余りの作品や資料で、「日本の表現主義」の展開を概観しようと試みます。一般に、美術史上の「表現主義」とは20世紀初頭のドイツを中心に興った芸術運動を指します。その思潮や作品は、本展に登場する日本の芸術家たちにも少なからぬ影響を及ぼしましたが、本展はそうした関係性を視野に入れながらも、日本独自の表現主義的造形に注目したものです。
現代も個性が尊ばれる時代ですが、一方、グローバル化が進む社会のなかで個性の希薄化も進行しています。慢性的不況、社会に浸潤する身勝手な暴力や富の不均衡など、多くの歪みも見られます。このような時代だからこそ、本展を通じて当時の前衛的芸術家たちの自己を見つめる目と表現する行為を考えることも意義深いのではないでしょうか。
滝沢眞弓《山の家(模型)》1921年(1986年再制作) 東京大学藤森研究室
坂本万七(推定)《「海戦」舞台写真〔築地小劇場第1回公演、装置吉田謙吉〕》 1924年 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館
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