豊潤な色彩美の魅力―「遊馬賢一展」に寄せて
遠藤 恒雄
還暦を前にして30年以上に及ぶ画歴を重ねてきた遊馬賢一氏は紛れもない色彩画家である。彼が描く風景や静物は初期から今日まで、一貫して豊潤な色彩美が奏でる心地良いハーモニーに貫かれている。 赤や青、黄、緑など画布に散りばめられた色彩の華には、これを見る人々の心に幸福感と安らぎの感情を喚び起す。それは現実世界から夢想の世界へ人々を誘う色彩の魔術と言ってよい。 彼の透明な明るさに満ちた風景作品を前にすると、「私の絵画は疲れた頭脳労働者の心を癒す安楽椅子のようでありたい」と語ったマティスの言葉を想い起す。「見て、感じ、表現する。 それが絵画の原点です」と語る氏は、自然と真摯に接し、見えるがままの自然ではなく、自己の感性に訴える自然、時が経過して自らが納得できるこれはと思う自然を色と形に要約して表現する。 画家ならば誰もがするであろうこうした行為が、偉大な先輩芸術家たちに伍して色彩画家としての遊馬芸術を際立たせている理由は何なのか。今回の名古屋画廊での久しぶりの個展と作品集の刊行は、 その理由を検索し画家としての遊馬賢一の人となりと芸術を再評価するまたとない機会のように思われる。
(愛知県立芸術大学名誉教授、美術史家)
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