戦後日本を代表する写真家・東松照明(とうまつしょうめい)は、昭和36 年(1961)に初めて長崎を訪れ、被爆者と被爆遺物の撮影を行いました。そこで原爆の被害というものは投下直後の一瞬の被害にとどまるものではなく、時を経てもなお放射能による影響等により人々が苦しみ続けているという現状を知り強い衝撃を受けます。以降ライフワークとして長崎の撮影を続け、その撮影対象は、被爆者のみならず長崎県内の様々な土地や人々の姿へと広がっています。
「女性の上着」 長崎国際文化会館 1985年 作家蔵 ©Shomei Tomatsu
本展覧会では、「長崎シリーズ」のうち1970 年代から撮り続けた膨大なカラー作品の中から厳選した初公開作品(一部アメリカ等で公開済み作品含む)、310点を一堂に公開します。長崎を日々めぐりながら撮影する「町歩き」シリーズを中心とし、あわせて、東松自身が廃材のコンピューターチップを組み合わせて創り出した人工生命体「キャラクターP」を各地で撮影した作品、1961 年より伴走するように撮影を続けている被爆者や被爆2 世の姿、長崎原爆資料館等の被爆遺物を撮影した作品の4つで構成されます。
特に被爆遺物の撮影プロジェクトは、東松と同世代でもあり、約50 年間撮影を続けてきた被爆者の高齢化が進み、将来的には被爆者不在、つまり語り部不在の時代が到来するのではないかという危惧から、「被爆遺物の写真」を新たな語り部として未来に残すことを意図したものです。
「色相と肌触り」とのタイトルにもあるように、写真はものの表面しか捉えることができません。しかし東松は、昭和36 年以来の約50 年間、つねに、長崎の表皮に宿る、被爆、さらにそれ以前の大航海時代へまでも溯る長崎の時の層を見据え続けています。
東松の「長崎シリーズ」が大規模に開催されるのは、2000 年の「長崎マンダラ」展(長崎県立美術博物館)以来9 年ぶりとなります。貴重な機会となる本展を、ぜひご高覧ください。
「町歩き」シリーズ 長崎市浜町 2007年 作家蔵 ©Shomei Tomatsu
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