プラスチック一体成型という世界初の手法で、流れるようなフォルムを実現したパントン・チェア。ヴェルナー・パントン(1926-98)といえば、このデザイナーズ・チェアを思い浮かべる方も多いことと思います。デンマークに生まれたパントンは、ポール・ヘニングセンやアルネ・ヤコブセンなど同国を代表するデザイナーと出会い、伝統的なデンマーク・デザインを学びました。その後世界の家具メーカーと協働して多くの名作デザインを世に送り出し、ヨーロッパにおける前衛デザイナーの旗手としてその地位を確立します。
《パントン・チェア》,1999
© Panton Design, Basel
パントンは家具だけでなく、プロダクト・デザイン、建築(実現せず)や展覧会など、空間全体の設計を手掛けるようになりました。奇抜なフォルムと強烈な色彩で知られるパントンの作品ですが、生涯を通じて一貫していたのはデザインに対するシステマティックなアプローチでした。それにより彼の関心は家具単体のデザインにとどまらず、空間全体にまで及んだのです。
フォルムと素材、製品化の技術と構造、色彩と光、システムとモジュールなどにおけるパントンの実験精神は 60-70年代のモダンデザイン史に大きな影響を与えました。とりわけ1970年ケルンの家具見本市における「ヴィジョナ2」展で発表された《ファンタジー・ランドスケープ》は、床・壁・天井を一体化させた有機的な空間で、この時代のデザインを語る上で欠かせない、パントンの最高傑作といえるでしょう。けれども残念なことに、パントンのあまりにも斬新な表現はデザイン史において特異な存在とみなされ、これまで本格的な研究の対象になっていませんでした。
テーブル・ランプ《パンテラ》,1971
© Panton Design, Basel
本展はヴィトラ・デザイン・ミュージアムによって企画され、当館独自の展示デザインによってパントンの多岐にわたる仕事をご覧いただく大規模な回顧展です。パントンと長年にわたる関係を築いてきたヴィトラ・デザイン・ミュージアムが所蔵する貴重なコレクションより、世界のデザインの方向性と発展に多大な影響を与えた50年代半ばから70年代半ばの作品にスポットをあて、家具、照明、テキスタイル、模型、ドローイング、映像など約150点を展示します。ヴェルナー・パントンの目指したトータルな空間デザインをご紹介する本展は、モダンデザインの過去から未来を展望する機会となることでしょう。
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